バーボンは意地悪だ。
これについては組織の誰に聞いても肯定してもらえると思う。
ベルモットは「貴女に過保護なだけよ」と笑うけれど、バーボンは私をお子様扱いしているだけに過ぎない。
これはいかんともし難い問題だった。

まず、私が指示された組織の仕事を先回りして片付けてしまう。
それも、別の用事の片手間にさくっとやってしまうから、怒るに怒れない。
そんなことが何度も続けばラム辺りが怒りそうなものだが、バーボンは口が上手いので、さらりと追及をかわしてしまう。
曰く、「最低限の労力で最善の結果を出しているのだから問題ないでしょう」とのことだった。
これではバーボンが有能だと評価されて、私の株が下がるばかりだからやっていられない。

でも、今日こそはやり遂げてみせる。

いまからとあるバーにいる客に会いに行くところだった。
その男から上手く情報を引き出すのが私の仕事だ。
実はこれは元々はベルモット宛にきた仕事だった。それを頼み込んで譲ってもらったのである。
心配していたベルモットを安心させるためにも、やり遂げてみせなければならない。

私は精一杯セクシーに見える格好でバーを訪れた。
そして、さりげなくターゲットの隣に座り、微笑みかける。

「こんばんは。ご一緒してもよろしい?」

「もちろん。歓迎しますよ、お嬢さん」

好感触だ。これはいけると思った。
男の腕が腰に回る。

「それで、何を……」

突然、バーのドアが乱暴に開かれて、誰かが飛び込んできた。
誰かじゃない。バーボンだ。珍しく焦った様子で足早にやって来ると、バーボンはぐいと私を抱き寄せた。

「僕の連れが失礼しました。お詫びにおごらせて下さい」

私を後ろに押しやって、バーボンが男に笑顔を向ける。
それからはバーボンの独壇場だった。
口八丁手八丁であっさりと目的の情報を引き出すと、バーボンは私の手を引いてバーから出た。人目につきにくい路地に入っていく。
文句を言おうとした途端、私はバーボンに抱き締められていた。

「心臓が止まるかと思いました」

苦しいくらいに抱き締められた身体から、明らかに速い鼓動が伝わってくる。

「僕をあまり困らせないで下さい」

これは、私が悪いのだろうか。
仕方なく「ごめんなさい」と謝ると、バーボンは私を抱き締めている腕を少し緩めてため息をついた。

「貴女に色仕掛けなんて出来るわけがないでしょう。何も知らない処女のくせに」

「バーボンの馬鹿!」

やっぱりバーボンは意地悪だ


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