梅雨入りはまだなの?と言っている間に季節は瞬く間に進んでいき、蒸し暑い日々がやって来た。今日なんて雨のせいで窓を開けられないから最悪だ。 冷房をつけたけど、アスリートである精市くんの身体を冷やし過ぎないように温度は控えめに設定してある。 「冷房の効いた部屋で食べるわらび餅美味しい」 「そうだね。わらび餅なんて久しぶりに食べたよ」 高校を卒業した後、私はそのまま立海大に進んで念願の一人暮らしを始め、精市くんはプロテニスプレイヤーになった。 試合のため世界中を飛び回っている精市くんだけど、日本に居る間はこうして顔を見せに来てくれている。 いつもは精市くんのためにスポーツ栄養学に基づいた食事を出しているのだが、今日は実家からの貰い物であるわらび餅を二人で食べているのだった。 「今日、大学は午後から?」 「うん」 「そうか。じゃあ、ゆっくり出来るね。二回は余裕かな」 「精市くんのえっち」 「男はみんな狼だよ」 精市くんが笑って言った。 スポーツマンらしい爽やかな笑顔の中に成熟した雄の淫靡さを滲ませて。 清潔な色香というものがあるなら、精市くんのそれがそうだと思う。 本気で口説き落としにきている神の子に、ただの女子大生が敵うはずもない。 朝からだなんて、とか、昨夜もしたのに、とか、この後トレーニングがあるんじゃないの、とか。言いたいことはあるにはあったが、どれも口にすることは出来なかった。 赤くなった顔を両手で隠した私の耳元で小さく笑う声がする。 びくっと身体を揺らして、恐る恐る手を退けると、いつの間にか隣に来ていた精市くんが微笑みながらゆっくりと言った。 「ベッドに行こうか」 |