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「とんでもない。あやつは正真正銘、最低の男だった」

香草を詰めたチキンをナイフで切りながら、セブルス・スネイプは苦々しい声音で唸った。

食卓には既に家族三人分の料理が並んでいる。
肉を切り分けるのは家長であるスネイプの役目だ。

先ほどジェームズ・ポッターの話を振った張本人である妻は、クスクス笑ってスネイプに皿を差し出した。

「でもねセブ、さっきも言ったけれど、彼の息子のハリーはこの子と同級生になるのよ。親同士が険悪だと、あまり良くないんじゃないかしら」

「同級生と言っても相手はグリフィンドールだ。我輩達の娘はスリザリン寮に違いないのだから、仲を気にする必要などないと思うがね。それに、聞くところによればその息子とやらはポッターそっくりだと言うではないか。どうせろくなものではあるまい」

スネイプはぶつぶつ言いながら切った肉を皿に取り分けていく。

先ほどからずっと両親のやり取りを眺めていたエリーは、父がそれほど嫌う相手なのだからなるべく近付かないようにしようと心に決め、グラスにカボチャジュースを注いだ。
このジュースはホグワーツで収穫したカボチャで作ったジュースだ。
学校でカボチャの栽培?と不思議に思ったが、母の知人の森番が学校の敷地内で育てているらしい。

「さ、早く食べてしまいましょう。料理が冷めてしまうわ」

妻の言葉に、スネイプもしぶしぶフォークを手にした。
まだまだ文句を言い足りないのだろう。
ポリジュース薬でも飲んだような苦い顔をしている。

「同級生というなら、ドラコがいるだろう」などと、なおも妻に訴えるスネイプは、どうしても“娘とハリーがお友達になるかもしれない可能性”を潰そうと躍起になっているようだった。
もっとも、そのドラコでさえ、娘とあまり仲良くしているとスネイプの機嫌が悪くなるのだから、実際はエリーには誰も近づけたくないというのが本音に違いない。

「そもそも、ホグワーツは女子寮と男子寮に分かれているのだから、同性の友人が出来るほうが自然なのではないかね?」

「そうね、エリーなら女の子の友達もきっと沢山出来るわね」

「ああ……いや、そうではなく…」

チキンをもぐもぐ食べているエリーをチラリと見て、スネイプは口ごもった。
彼としては、男女の問題を懸念しているのを娘に悟られたくはないらしい。

「そうそう、ボーイフレンドが出来たら、ママにも紹介してね」

「ぐふぅッ──!」

妻の止めの一言に、スネイプは思いきりむせた。



──翌年の夏。

「ママ、お友達のトムよ」

エリーの招待で訪れた背の高い黒髪のハンサムな少年を見て、母は娘の手柄に瞳を輝かせたのだったが、それはまだもう少し先の話になる。


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