魔法使い達の住む世界において、最大の街がある都市、ロンドン。 一年の終わりを迎えるその日、いつもよりは人通りの少ないダイアゴン横丁を、なまえは養い子の手を引いて歩いていた。 「ねえ、本当に梟は買わなくていいの? お誕生日なんだから遠慮しなくていいのに」 「梟なんていらないよ」 幼年期から少年期へと移り変わる年頃特有の、幼さの残る透明な声で言って、少年は少し困ったように笑った。 「ホグワーツに行けば学校の梟がいる。母さんに手紙を書くなら、それで十分だよ」 少年の名前は、トム・マールヴォロ・リドル。 早いもので、まだ赤ん坊だった彼を孤児院から引き取ってから、もう十余年の年月が過ぎようとしていた。 来年にはホグワーツへの入学が決まっている。 「それより、早く帰って母さんの料理が食べたいな」 トムはなまえを見上げてにっこり笑った。 横を通り過ぎた年上の女の子が、頬を染めてぼうっとした顔でこちらを見ている。 トムはその年頃にしては、サラサラした清潔な黒髪と整った顔立ちが人目を惹く、魅力的な少年だった。 そして、彼自身、自分が他人に与える影響をよく心得ている節が見られる。 この年齢で既に人心操作の術を身につけているのだ。 しかしながら、なまえへと向けられる笑顔は、愛情に満ち溢れたものである事に間違いはない。 「それは嬉しいけど…レストランで食事をしてもいいのよ?」 「いらない」 トムはきっぱり首を振った。 「母さんの料理でお祝いして貰うほうが、ずっと嬉しいよ」 握った手にぎゅっと力が込められる。 黒い瞳に熱っぽく見上げられると、なまえはくすぐったいような気持ちになった。 |