「こんなところで寝ていたら風邪をひくよ」 頬に何かが触れている。 誰かに、そっと優しく撫でられている。 目を開けると、トムの姿がそこにあった。 出掛けた時の服装のまま、彼はなまえの座る椅子の前に跪いている。 部屋の中は既に薄暗い。 どうやらトムの帰りを待つ間に眠ってしまったようだ。 「ごめんね、直ぐ夕食の支度をするから」 愛おしげに頬に添えられたままの手の感触が気恥ずかしくて、なまえは慌てて立ち上がろうとした。 が、少し腰を浮かせたところで肩を掴まれ、引き戻される。 それほど力をこめた様子もないのに、簡単に椅子へと沈められてしまったなまえは驚いた。 「後でいいよ。それより、話したいことがあるんだ」 「え、ええ…なあに?どうしたの?」 真剣な表情で見つめてくるトムに、何故だか不安を掻きたてられてドキドキと心臓が高鳴る。 目の前にいるのは本当に自分が16年間親代わりになって育ててきたトム・リドルなのだろうか? まるでまったく知らない男の人になってしまったみたいだ。 ふっ、とトムが唇を綻ばせた。 思わず見惚れてしまうようなその微笑み方になまえは息を飲む。 「僕が怖い?」 「こ、怖くなんかっ──」 「でも震えてる」 トムの手が、するりと首筋を滑り降りたかと思うと、しなやかな長い指がローブの襟元へ差し入れられた。 「───!」 抵抗する暇もない、あっという間の出来事。 再び外に現れたトムの指先には、金色の鎖が絡め取られていた。 今までなまえがずっと肌身離さず身につけていた、逆転時計の鎖が。 「全て話してくれ」 なまえの目を正面から見据えたまま、トムが静かに告げた。 |