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どうしても声が気になるらしいなまえを見て、ふっと微笑んだリドルが立ち上がる。
あっと思った時には、もう彼に抱きすくめられていた。

「気にするなと言っただろう。最後まで手間のかかる女だな」

「だ、だって……」

身じろぎするなまえをしっかり腕の中に抱え込んで、リドルがくっくっと笑う。
そうして、なまえはふと妙なことに気が付いた。

──最後……?

「トム、あの──」

リドルはするりとなまえの頬に指先を滑らせると、それ以上何かを言う前に、その唇に己の唇を重ねた。
感触を確かめるように──あるいは、存在を記憶に刻みこむように、たっぷりと時間をかけて唇と唇を触れあわせる。

今まで幾度となく口付けを交わしてきたが、こんなに優しいキスは初めてだ。
なまえはどうして良いのか分からず、ただ彼の確かな温もりを受け入れていた。

「愛している、なまえ」

なまえの目を見つめながらリドルが囁く。
彼が生来持っていたはずの気性である高慢さはなりを潜め、そこには言葉の通り深い愛情だけがあった。

「──ト、」

突然、リドルがなまえを思いきり突き飛ばした。

「!?」

放り出されたなまえの身体は、当然衝突すると思われた列車の壁を通り抜けて、そのまま外へと飛び出した。

蒸気に似た白い霞の中を落ちていくなまえの視界に映るリドルの顔が、窓が、紅色の列車が、瞬く間に遠ざかっていく。


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