のたうつ少女は、まるで水蜜桃だ。 瑞々しく、柔らかい。 薄桃色に上気した白い果肉のような肌に誘われて、やんわりと歯を立てる。 このまま食い破ってやろうかと、一瞬物騒な衝動を覚えないでもなかったが、あくまでも甘噛み程度の力加減で。 汁を滴らせながら甘く鳴いたから、今度は、同じ場所を舐めてやった。 悲鳴がか細い啜り泣きに変わる。 世の中にはそれで気を削がれる男もいるだろうが、彼は特に気にしなかった。 『泣く』のも『鳴く』のも、彼にとってはそれほど変わりはないからだ。 熟れた桃は喰われて当然。 貪り喰われる内に、嫌でも己の運命を受け入れるしかない。 ただ、今にも喰われんとしている果実が、あまりにも頼りなげな、縋るような眼で見つめてくるので、彼は仕方なくその背を撫でて宥めてやった。 そうやって甘やかされるコトを喜ぶのを知っていたからだ。 「良い子だ……」 現金なもので、果実は途端にほっとしたように笑顔を浮かべた。 その内(なか)も外も、蕩けきった水蜜桃は、何処までも甘く…甘く……。 「なまえ、どうしたの、それ」 ベッドから起き出して来たパンジーが、自らの首筋を指でトントンと示しながらなまえに問いかける。 彼女と向かいあうなまえの首筋には、微かな歯形が残っていた。 ともすれば見逃してしまいそうなほど薄くついているのに、奇妙に目につく痕。 鏡を見てその事に気付いたなまえは、ちょっと言い淀んだ後、ぽつりと呟いた。 「…猫に噛まれたの」 ベッドの上で寛いでいた黒猫が、閉じていた目を開けてチラリとなまえを見遣る。 鋭い牙を見せてひとつ欠伸をすると、黒猫は再び目を閉じた。 「またまたあ〜。どう見ても猫に噛まれた痕じゃないでしょ。ねぇ、誰にも言わないから正直に言いなさいよ」 「正直もなにも、本当に猫に噛まれたんだって──ひゃっ!?」 ニヤニヤしながら食い下がる友人を何とか説得しようと努力していた最中、予期せぬ刺激に飛び跳ねる。 その太股──寝間着がはだけて露になっていた肌を、黒猫リドルがざりざりと舐めていた。 まるで果実か何かを味わうかの如く、丹念に、そして、淫靡な舌使いで。 |