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深夜を過ぎると、寮監による城内の見回りが始まる。
と言っても、もともと見回りは管理人の仕事なので自寮に関する場所を見て回る程度だ。

スリザリン寮の寮監であるスネイプは、足音一つ立てずに慣れた足取りで地下への階段を降りて行った。

彼は先ほどポッターが閲覧禁止の棚をうろついてはいないか図書館を見て来たばかりだった。
あの忌々しい父親の血を濃くひいた為だろう、『生き残った男の子』は、入学して以来規則を破って問題ばかり起こしている。
火遊びの結果たまたま活躍をしたというだけで英雄に奉り上げる者達の気が知れない。
スネイプにとってハリーは頭を悩ませる問題児でしかなかった。
石段を照らしていた杖灯りを消すと、スネイプはスリザリン寮の談話室へ入って行った。
天井から下げられた緑色のランプ一つを残して、全ての灯りが消された室内を、黒いマントの裾を翻しながら奥の階段へ向かって横切っていく。
慣れた道だ。
目を閉じていてもつまずくことはない。

女子寮へ続く階段を降り、静かにドアを開く。
寝静まった少女達の寝息が微かに暗い室内に響いていた。
何も異常がないのを確かめながら、寝台の一つに歩み寄り──

「!」

スネイプはギクリとして後退った。
長い黒い影がカーテンに浮かび上がっている。

「ご苦労な事だな、セブルス」

カーテンの奥から低く嘲る声が聞こえた。
しなやかな白い指がカーテンの隙間から現れ、僅かにそれを開く。
切り取られた闇の中に、黒髪に縁取られたハンサムな青年の顔が覗いた。
真紅の瞳がスネイプを見据え、チラリと横へ流される。
ベッドの中では、一人の少女がすやすやと平和な寝息を立てていた。

「なまえの事ならば心配はいらない」

黒い影が縮み、次の瞬間には、青年がいた場所に一匹の黒猫が座っていた。
真紅の瞳がスネイプを馬鹿にしたように見上げ、眠るなまえの枕元へとその身を丸く横たえる。

スネイプは無言のまま、苦々しい顔つきでそっとカーテンを閉めて立ち去った。

どこの世界に、闇の生き物に守られた少女を害するものがいるだろう。
再び暗黒の時代が訪れようとしている今、なまえは誰よりも危険であると同時に、誰よりも安全なのかもしれない。


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