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ドラコは、妊娠が判明した時からずっとなまえが毎日きちんと日記をつけていることを知っていた。
その黒い表紙の日記帳が、ボグゾール通りの雑貨屋で購入した物であることも知っていた。
かつてお腹の子の父親がそこで購入した物とよく物を選んだことも。

ドラコはなまえが胸元にペンダントをさげている事も知っている。
ある目的の為に一度破壊されたそれは、ハリーの手から彼女へと渡され、壊れた蓋の部分を修復されてからずっと、肌身離さず身に付けてられているのだった。

そして、なまえの子供の父親が誰であるかも勿論知っている。

腹の子の父親が誰であるか知れたら、たちまち魔法界は大騒ぎになるだろう。
だからこそ、彼女は隠れるようにしてマグルの世界で生活しているのだ。
事情を知っているのは、ドラコを含む、ごく一部の魔法使いだけ。
このままマグルとして生き、子供が生まれてもマグルとして育てていけばいいのかもしれない。
しかし、生まれてきた子供が、もしも父親そっくりだったとしたら?
容姿だけでなく、魔法の才能までも父親譲りであるとすれば、いずれは隠しきれなくなってしまうのではないだろうか?

「有難う」

顔を上げたドラコに微笑みかけて、幼い母親はカップを握る彼の手にそっと触れた。

「心配してくれてるのね」

「当たり前だろ」

ドラコはぶっきらぼうな口調で言った。

「私なら大丈夫。平気よ」

彼女は優しい。
かつてマグルの世界で行われていたという魔女狩りの如く、松明を掲げていつかなまえを狩りにやってくるかもしれない者達から守る為にも、もっともっと大人に──しっかりした男にならなければと焦燥に駆られる彼の心中を見透かしているように。
すっかり日が暮れてからドラコはその小さな家を後にした。
訪れた時と同じように外套の襟を立てて、玄関から庭へと続く階段を降りていく。
吹き付けてくる冷たい風の中、ドラコはふと後ろを振り返った。
母子が暮らすささやかな家の窓にはオレンジ色の明かりが灯り、暗さや不吉さの陰すら感じられない。

──ハロウィンには戻ってくるって言ってたから
なまえがそう言って笑っていたのを思い出し、まさかなと苦笑する。

姿くらましをしてドラコが消えた後。

ゆっくりとした足取りで闇の中から現れた一匹の黒猫が、玄関先のジャックオランタンを冷ややかに一瞥し、我が家へ帰る主人のような顔をして小さなテラスへと上がって行った。


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