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実のところ、天使と堕天使はそれほど違わないのではないかと僕は思う。
それは単に、堕ちたか堕ちていないかの違いだけではないのだろうか?
そうでなければ納得出来ない。

僕の妹は、天使だった


「ドラコ兄さま」

クロリス。僕の双子の妹。
クロリスは駆け寄って来ると、にこにこと笑いながら僕の腕をひいた。

「早く、兄さま。お父様が待っているわ」

彼女の言葉に、ホグワーツ特急の窓を見るとホームで待つ父上の姿が目に入った。
蛇頭を模した杖に手に、上質なマグルのサマーコートを着込んだ父上は、冷えたアイスブルーの瞳でこちらを見据えている。

「わかった、わかった。クロリスは先に行っていいよ。僕はまだ荷物を整理してないから」

悔しいが、ついさっきまであのポッターと仲間達に呪いを掛けられていたせいで、まだ降りる準備が終わっていない。
一緒に降りようと僕を急かしていたクロリスは少し困ったような顔をしたが、頷いてコンパートメントを出ていった。

まろぶように列車を降りていく、その小さな後ろ姿を目で追う。
クロリスがホームに降りる。
父上の顔が綻び、両腕が広げられる。
その胸に飛込む、クロリス。
それらを僕はじっと見守っていた。
母上の姿はない。
僕は溜め息をついて、荷物をまとめ始めた。


『彼女』の話題は、マルフォイ家では禁忌になっている。
父上の……ルシウス・マルフォイの従妹だった女性のことだ。
僕が初めて『彼女』を見たのは、父上の私室に飾られた写真立ての中だった。
覗き込んだ僕に、父上に似た美しい銀糸の長い髪を揺らして、小首を傾げて微笑む美しいその女性(ひと)は、15、6といったところだろうか。
幼いながらに、父上にとって大切な存在なのだと思った。

クラッブやゴイルがそれぞれ自分達の親から聞いてきた話では、『彼女』は、消えたらしい。
死んだのか、何処か遠くへ行ったのか。
それはわからない。
『彼女』の身に何が起こったのか、きっとそれを知っているのは父上だけなのだろう。
闇の帝王が関わっているとも聞いたが、真相はわからないままだ。
勿論、父上や母上に聞けるわけもない。

ただ、ある事が気にかかった。

『彼女』の写真の横に並べられた、クロリスの写真。
小さな赤子の時の物
歩き始めた時の写真
成長記録のように順に並べられたフレームの中で妹は日増しに成長していく。
『彼女』と僕の妹。
並んだ写真の二人は、とても良く似ていた。

親戚だから似ていてもおかしくない、そう思っていたのだ、その時は。


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