「媒体だ。魂の核を植え付ける媒体がいる」 そう言って、闇の帝王の分身は爪でトントンと柩を叩いた。 冷たいクリスタルの柩の中に横たわる少女の顔を見下ろしながら、真紅の瞳が煌めく。 「純血ならば誰でもいいが、お前には婚約者候補の女がいただろう。丁度いい」 「……ナルシッサに何をしろ、と……?」 答えるルシウスの声は震えていたが、恐怖からではなかった。 今更何を恐れる事があるだろう? 何よりも愛おしい少女を喪うと言う事以外に。 「何も。お前はただ予定通りその女と結婚して子供を作ればいいだけだ」 確かに、ナルシッサならば相応しいだろう。 彼女もルシウスの妻となることに不服はないはずだ。 それでもルシウスが心の底から真実愛するのは、今まさに永遠に喪われようとしている小さな命だけだった。 「魂を定着させる秘術を使えば、生まれてくる子供は双子になるだろう。片方は本来生まれてくるはずだったお前の子供だ。そして、もう一人は……」 「…クロリス…」 リドルの視線を受けて、色を失ったルシウスの唇から愛しい少女の名前が零れる。 アイスブルーの瞳が柩の中を貪るように見つめる。 それを見て、リドルはふっと瞳を細めた。 「やるならば早いほうがいい。…クロリスも、早くお前に会いたがっているだろう」 悪魔の囁きは時に何よりも甘美に響くものだ。 もっとも、クロリスを再びこの腕に取り戻せるのならば、ルシウスには相手が何者だろうと構わなかったのだが。 神でも悪魔でも構わない。 もう一度取り戻せるのならば。 ルシウスは憔悴した美貌を主に向け、憑かれた顔で頷いた。 罪に堕ちる愛が始まる。 |