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ある晩の事。
深夜に喉が乾いて部屋を出た僕は、妹の部屋から漏れ出る微かな声に気付いた。

そっとドアの隙間から覗き見た、その光景は今も頭から離れない。

妹のベッドの上、父上の広い背中が月光に浮かび上がっていた。
そして、その背に縋りつく、小さな白い手──。
不思議と嫌悪感は湧かなかった。
むしろ、胸が痛くなるほど美しい光景だと感じた。

月光の中で絡み合う、二人の男女の姿。
その甘い喘ぎ声と、途切れ途切れに父上の名を呼ぶ声に、時折違う単語が混ざった。

“兄さま”

何故か、それは僕を呼んだのではないとわかった。
そして、同時に悟ったのだ。
『彼女』は、愛するルシウス・マルフォイのもとへ戻って来たのだと。



美しく整えられた庭園。
その片隅、愛する少女が好んでいた薔薇園のベンチに、ルシウスはゆっくりと歩み寄る。
そこにはクロリスが腰掛けていた。

「クロリス…」

甘く掠れた呼び声に、クロリスが微笑む。
ルシウスは娘の前に跪き、片手で娘の腰を抱きかかえるようにして彼女の下腹に頬を寄せた。
その存在に縋るように。

「ルシウス」

クロリスは嬉しそうに笑って、心地よさに溜め息をつくルシウスの銀糸の髪に指を絡めて優しく撫でる。

「ルシウス」

繰り返し名を呼ぶこの声を、ルシウスは愛していた。
腕の中の存在を、その温もりを確かめるように、何度も頬を擦り寄せる。

「クロリス、愛している…」

「私も愛しているわ……兄さま」

必ず戻ると約束したでしょう?
柔らかく微笑む少女に微笑み返し、ルシウスは顔を上げて口付けた。


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