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ルシウス・マルフォイの招きにより訪れたそのパーティーは、華やかでありながら、どこか退廃的な香りの漂う夜会だった。
それはたぶん、招待客の顔触れによるものなのだろう。
純血の家系であるのは勿論のこと、どの顔にも特有の傲慢さと冷酷さが見てとれる。
左腕に揃いの刻印を持つ者も少なくないはずだ。

そんな特異なパーティーに招かれた若いレギュラスは、選ばれた事への優越感と興奮──そして、ほんの僅かな畏怖を感じていた。

「やあ、レギュラス」

屋敷の当主であり、今夜の夜会の主催者でもあるルシウスが、一人の少女を伴って笑顔でレギュラスを出迎える。
ブラック家とマルフォイ家は懇意にしている仲であるとはいえ、こうした場でルシウスと会うのは初めてだ。
にも関わらず、パーティーに相応しい美麗な微笑を浮かべたルシウスは、まるで歳の離れた弟に対するような親しげな口調で語りかけながら握手を交わしてくれた。

「よく来てくれたね。ご両親はお変わりないかな? お母上は随分気を落とされていたようだが」

「はい。相変わらずです」

レギュラスは失礼にならない程度に軽く肩を竦めてみせた。
彼の兄のシリウスは今までも散々両親に反抗していたのだが、今年の夏にとうとう家を飛び出して行ってしまったのだ。
無論、魔法界の情報に敏いルシウスの耳にもその話が届いているに違いない。
思わず苦い笑みを雫したレギュラスに、ルシウスは気遣わしげな表情を作ると、励ますように優しく肩に手を置いた。

「困ったものだな。しかし、君がいればブラック家は安泰だろう。放蕩息子の兄とは違って、純血の家の跡取りに相応しく、正しい物の考え方が出来ると評判だ」

「いえ……僕は…」

ルシウスの賛辞に口ごもる。

両親の期待には応えたい。その気持ちに嘘はなかった。
しかし──
兄に劣る容姿。
兄に劣る才能。
何事においても自分より優れていた兄の代わりが、果たして自分に務まるだろうか?

グリフィンドールの生徒の中には、レギュラスのことを『王子になり損ねた王子』などと揶揄する者もいる。
真摯に家の事を考えれば考えるほど劣等感にさいなまれ、不安を感じていたのは確かだった。

「謙遜する事はない。クロリスから噂は聞いているよ。クィディッチではシーカーとして活躍しているそうじゃないか。私もスリザリン寮の出身者として喜ばしい限りだ」

「有難うございます」

レギュラスはルシウスの傍らに静かに寄り添っているクロリスを見た。
視線があった彼女にふんわりと優しく微笑みかけられて、レギュラスの頬にほのかな赤みが刺す。
クロリスはシリウスやセブルス・スネイプと同じ歳だから、レギュラスにとっては歳上の女性のはずなのだが、とてもそうは見えない。
レギュラスの反応を見たルシウスが密やかに笑う。

「ああ、そういえば、まだ君には話していなかったね」

そうして、ルシウスは少女の手を取り、レギュラスの前でその指先に唇を寄せた。
クロリスの細い指には優美な銀色のリングが輝いている。

「改めて紹介しよう。──私の、婚約者のクロリスだ」

突然、周囲の音が遠のいていくような錯覚とともに、レギュラスは酷い目眩を感じた。
ルシウスが何か言っていたが、ちゃんと答えられたかどうか──
その後どんなやり取りを交わしたか、まるで覚えていなかった。


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