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明日には戻らなければならない。
今宵一晩限りの蜜月だ。

「おいで、クロリス。こちらで暖まりなさい」

雪に埋もれた森の中にある別荘の室内に入ると、暖かい空気が流れ出して来た。
ハウスエルフが暖炉に火を入れて準備しておいてくれたらしい。
コートを脱ぎながら手招きするルシウスに従って、クロリスは暖炉の側に立つ彼のもとへ歩み寄った。
黒い上質の毛織のコートは溶けた雪が水滴になってついている。
恐らくはクロリスのコートもそうだろう。
ルシウスは自分のコートを脱ぐと、クロリスを手伝って彼女のコートも脱がせた。
音を立てて燃えている暖炉の横のコート掛けに二人分のコートを掛け、暖炉の正面のソファに腰を下ろすように促す。

「寒さ避けの魔法を掛けておくのだったな。すっかり冷えてしまったね」

魔法を掛けたマグルの車で来たとは言え、降りて別荘に入るまでの間にクロリスの手はすっかり冷たくなってしまっていた。
ルシウスは小さなその手を自らの手で包み込むようにして温める。

テーブルの上には香草を詰めて焼いたチキンや、生ハムのサラダ、スープ等が用意されていて、いつでも食事が出来るようになっていた。
その事が本当にルシウスと二人きりなのだという事実を否応なくクロリスに突きつける。
いつもの触れ合いが何だか少し気恥ずかしく感じて、クロリスはルシウスの手の中から自分の手を抜こうともぞもぞと動かした。
暖炉の熱のせいでなく頬が火照る。

「だ、大丈夫。これくらいの寒さなら、ホグワーツではいつもの事だもの」

そんなクロリスの気持ちなどお見通しらしく、ルシウスはふっと笑うと、少女の指先に唇を寄せた。

「に、兄さま…!」

「二人きりだね、クロリス」

凍えるような色の瞳を優しく細めての言葉に、痛いくらいに心臓が高鳴り始める。
ルシウスのしなやかな指先が、しっかりと捕えた手を愛撫するように撫でた。
室内の空気が変わっていくようだ。

ルシウスはそうしてクロリスの様子を愛しげに見つめていたが、やがて笑って手を離した。
『従兄』の顔に戻って、テーブルに視線を向ける。

「さあ、まずは食事をしよう。ご馳走を楽しみにしていただろう?」

「うん」

ほっとした気持ちで胸を押さえるクロリスに、ルシウスはおかしそうに口元を綻ばせたまま、テーブルの上のシャンパンに手を伸ばした。


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