マルフォイ家には沢山の客室があるが、その中でも一番立派な一部屋が、クロリス専用の部屋だった。 当主の私室と遜色ない広さと内装は、とても休みの間に何日か滞在する為だけに用意された部屋とは思えないほどの豪華さだ。 ふかふかのクッションの付いた肘掛け椅子に、足載せ台。 様々な化粧品が置かれた、優美なドレッサー。 開くと、音楽とともに七色の光が踊る外国製のオルゴール。 女神とニンフ達の彫刻の施されたクロゼットには、ルシウスから贈らた洋服がぎっしりと詰まっている。 しかも、それは訪れる度に増えていた。 「喉が渇いただろう。アイスティーでいいかな?」 「ええ。有難う、兄さま」 今年も泊まりにやって来たクロリスを部屋に通すと、ルシウスは冷たいアイスティーのグラスを出した。 ベッドの脇には、トランクが置いてある。 ドビーが運んで来たのだろう。 窓辺に歩み寄ったクロリスは、擽ったいような喜びがこみ上げて来るのを感じた。 父の跡を継いで多忙のはずのルシウスだが、クロリスを出迎えて部屋に案内する役目だけは、譲るつもりがないらしい。 てっきりドビーが迎えに出て来ると思っていたのに、白亜の邸の入口まで出迎えに来ていたのは、当主その人だったのだ。 驚くクロリスを嬉しそうに抱擁すると、彼は例年の如く自ら部屋へ導いてくれたのである。 「あれ…?」 何気なく部屋の窓から庭園を見下ろしたクロリスは、ふわふわと飛び回る小さな妖精達の姿を見つけた。 「綺麗…! 兄さま、妖精を捕まえて来たの?」 「ああ、君が来ると聞いた父上が、どっさり捕まえて来てね…ご覧の通りの有り様だ」 まるで、クロリスを溺愛するのは自分だけで良いとでも言いたげな口調だ。 だが、蛍のような燐光を放つ小さな妖精達の姿は、夢のように美しい光景だった。 うっとりと見入るクロリスを、背後からルシウスが抱き締める。 「妖精より、私は君を見ていたい」 「兄さま…」 お腹の辺りで組まれた手の温もりと力強さ、耳元で囁かれる声の甘さに、ドキドキと胸が高鳴る。 「会いたかったよ…クロリス」 ルシウスの硬く男らしい体を背中に感じて、クロリスは頬が熱くなるのを感じた。 「いっそ、ホグワーツや家になど帰さずに、このままここに閉じ込めてしまいたいくらいだ」 「もう…またそんな事ばっかり」 「私は本気だよ」 「あ、あの、アイスティーを飲まないと…」 「そうだね。では、私が口移しで飲ませてあげよう」 「に、兄さまっ!」 「良い子だね…さあ、じっとして…零れてしまうよ」 「ぁ……ん、ぅ…」 「美味しいだろう?ああ、でも、やはり君の唇のほうがずっと甘いね、クロリス」 ドアの外で、ドビーが声をかけるタイミングが掴めずに困っているとも知らず、ルシウスは甘い言葉で従妹を口説き続けた。 |