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ルシウスが卒業する。
一緒にホグワーツに通えるのはほんの僅かな間だけだとはわかっていたはずだった。
仕方がない事とは言え、いざその時を迎えると、やはり寂しい。
夏休みの始まりは、すなわちルシウスとの別れの日である。

ホグワーツからキングズクロス駅へと向かう列車の中で、クロリスは泣き通しだった。

「大丈夫だよ、クロリス。卒業してしまっても、休暇になればまた会えるのだから」

ローブの胸元をグッショリ濡らしてすすり泣いているクロリスを抱きしめたまま、ルシウスが優しく宥める。

もう、次の秋からは、悲しい時にこうして膝に抱き上げられることもないのだ。
背中を撫でる手の温もりも、髪を梳いてくれる指の感触も、もう望んだ時にはそこに無いのだと思うと、それだけで涙が溢れてきた。

それが当然のことのように思えてくるほど、何時も側にいてくれた大切な人。
自覚し始めた淡い恋を抱えて、これから一人で苦しまなければならないのか。

「困ったな……そんな風に泣かれては、私の心臓が保たないよ」

ルシウスが苦笑して、ハンカチで涙を拭いてくれる。
糊の利いた純白の布地からは、彼がいつも身に付けている上品な香りがした。

「兄さまは…平気なの…?」

離れがたく思っているのは自分だけなのかと、涙声で従兄に問いかけた。
そんなクロリスに微笑みかけ、ルシウスが両手でクロリスの頬を包み込むようにして顔を上げさせる。

「平気なものか。出来る事ならば、君の側から離れたくはない。これから、私の目の届かない場所で君を一人にしなければならないと思うと、胸が張り裂けてしまいそうだ」

ルシウスの唇がクロリスの目元にそっと触れた。
次いで頬に、そして、唇へと軽く口付けられる。

「だから、毎日手紙を書こう。君が寂しくないように」

名残惜しげに幾度も繰り返されるキスに、クロリスはようやく泣きやんだ。

「本当…?」

「ああ、約束しよう」

「本当に毎日手紙をくれる?」

「誓って」

厳かに誓ったルシウスにクロリスはぎゅーっと抱きついた。
ルシウスの力強い腕が、しっかりと抱きしめ返してくれるのが嬉しい。

「兄さま……大好き…」

ゴホン。
──と、頃合いを見計らったかのように、向かいの席から控え目な咳払いが聞こえた。

「そろそろ着替えたほうがいいと思いますが…」

セブルスがポツリと呟く。
彼は先ほどからずっとそこにいたのだ。
見れば、ロンドンに近づいて来たようで、車窓には街の灯りが瞬いていた。
視線を合わせないようにしているセブルスを見て、小さな子供みたいに甘えているところを見られてしまっていたと知ったクロリスは赤くなった。
手荷物から用意しておいた私服を取り出しながらルシウスが笑う。

「クロリス。この夏は私のところへおいで。新学期が始まるまでの間、出来るだけ一緒にいよう」

その言葉に、クロリスはにっこり微笑み、セブルスはうんざりした顔をした。

そうして、幼い恋とともに夏休みが始まる。


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