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ひんやりとした冷たい手が額に置かれた感触に、酷く重たい感じのする目蓋を開く。
そこには予想通りルシウスの姿があった。

出先から駆け付けたらしく、黒いマントをローブの上に纏った彼からは、いつもの香水に混じって微かに『外』の匂いがしている。

「兄さま…」

「すまない。起こしてしまったね」

目を開けたクロリスにルシウスが優しく微笑む。
それだけで、熱で気だるい体がほんの少し軽くなった気がするから不思議だ。

「大丈夫…来てくれて有難う、兄さま」

クロリスが首を横に振ると、熱を計るように額に触れていた手が、今度は火照った両頬を包み込んだ。
軽く唇にキスを落としたルシウスが、心配そうに端正な顔を曇らせる。

「薬は?セブルスが届けたと言っていたが」

「うん、さっき飲んだところ」

痩せた梟が届けてくれた薬は恐ろしく苦かったが、やはり効果があるようで、飲む前に比べて随分熱は下がってきていた。
お腹ももう痛くないし、吐き気もおさまっている。

「そうか。それなら大丈夫だろう。セブルスの薬は良く効くからね」

枕元に置かれた薬瓶を見てルシウスが頷いた。
今頃セブルスもさぞ心配していることだろう。
実のところ、セブルスも見舞いに来たがっていたのだが、かえって病人の負担になるからとルシウスが引きとめていたのだ。
勿論、この可愛い従妹に、そんなやり取りがあったことを話すつもりは毛頭なかった。
クロリスを甘やかすのも頼りにされるのも、自分だけでいい。
弱っている今は尚更他の男の目に触れさせたくはなかった。

「クロリス、水分はちゃんととっているかい? 喉は渇いていないかな? 欲しい物があれば、何でも言いなさい」

「えっ、と…」

優しくそう言うルシウスに、クロリスは言いかけて躊躇った。
それを見逃すはずもなく、ルシウスがすかさず畳み掛ける。

「何かな? 何でも言ってご覧」

「……うん…あのね…」

それから、数分後。
薬の効果ですっかり寝入ったクロリスの隣りには、彼女の望み通りに、添い寝しながら優しい手つきで繰り返し髪を撫でてやっているルシウスの姿があった。


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