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試験直前のホグワーツは、ちょっとした戦場になる。
上は最上級生から、下は一年生まで、各学年の生徒達がそれぞれの試験勉強に励むせいだ。
学年により多少日にちはずれるとは言え、やはり試験勉強期間は重なってしまうので、仕方ない。
中でも深刻な状態にあるのは、五年生から上の生徒達だった。

取り乱して泣きわめき、鎮静薬を与えられる者。
凄まじい形相で猛然と羊皮紙に羽ペンを走らせている者。
教科書を見つめてブツブツと延々呟き続けている者。などなど。
比較的気楽な下級生が恐々と遠巻きに見守るほど、その様子は鬼気迫るものがある。
空気を読めない能天気な一年生が爆発スナップでも始めようものなら、恐らくあちこちから呪いが飛んでくることだろう。

しかし、そんな談話室で、和やかな空気が流れている場所があった。
暖炉前のふかふかのソファに優雅に身を沈ませたルシウスと、その従妹であるクロリス、そして、セブルスがいる一角である。

「兄さま、これは?」

「ん? どれだい?」

教科書を広げたクロリスの肩越しにルシウスが覗き込む。
隣りに座るクロリスの肩をごく自然に抱き寄せながら。

神経質な文字でみっちりと埋まった羊皮紙と自分の教科書を交互に見ていたセブルスは、ルシウスの動きに一瞬目を上げたが、また直ぐに自分の作業に戻った。
この程度なら問題ないと判断したのだろう。

「ああ、いや、それは出ないだろう。むしろ、こちらを覚えておくほうがいい」

ルシウスのしなやか指先に握られた羽ペンが指したのは、『小鬼の反乱』と書かれた章だった。

「小鬼の反乱、1612年。年号と反乱の概要を覚えておきなさい」

「はい」

こくっと頷いたクロリスに、教科書に載せられたセピア色の写真の中から、頭の禿げ上がった魔法使いが「その通りだよ」と言うようにウィンクして見せた。
すかさずルシウスの羽ペンの先がその写真に突き刺さる。
写真の中では魔法使いが顔を押さえてのたうち回っていたが、ルシウスは何食わぬ顔で教科書をバシッと閉じて言った。

「さて。そろそろ休憩しよう」

「え? もう?」

まだ一時間も勉強していないのに、と首を傾げる。
ルシウスはさっさと杖を振って紅茶の準備を始めていた。

「集中力は、保って30分ほどだ。長時間続ければ良いと言うものではないよ。小憩を挟んでやるほうが効率が良いからね。大丈夫、クロリスは充分頑張っているよ」

よしよし、撫で撫で。
優しく頭を撫でられて、クロリスはうっとりとした表情で目を閉じた。
ホグワーツに入学して始めての試験だから、やはり少し緊張してしまっていたようだ。
体から力が抜けてリラックスしていくのがわかる。

「セブルス、お前も休憩しなさい」

ルシウスはセブルスの教科書と羊皮紙も取り上げて笑った。
どうだ、私は優しいだろう、と言わんばかりの笑みだ。
やれやれと言いたげにこちらを見たセブルスと視線を交わして、クロリスはクスクス笑った。
ルシウスのお陰で、試験への不安はすっかり消えてしまっていた。


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