コワイユメを見た。 真夜中、クロリスは一人きりで人気の無い階段を地下へと降りて行く。 突き当たりのドアをそっと細く開くと、微かな灯りの中に、綺麗な従兄の姿が見えた。 その顔には、いつもの優しい笑顔ではなく、酷く残酷な笑みが浮かんでいる。 ガウン姿のルシウスの足元には、女の人が蹲っていた。 女の人の背中には、痛々しい赤い筋が幾つも付いている。 ルシウスが腕を振り上げる。 空気を切る、ひゅっという音がして、何か細長い杖のような物がしなって、女の人の背中を走る。 兄さまは、とても楽しそうだった。 女の人は痛そうだったけれど、媚るようなあまいこえをあげていて…… 「夢だ」 パタン、と本を閉じてセブルスが言った。 クロリスの話を遮るように。 そう、確かに、その後どうしたかも覚えていないから、やっぱりあれは夢なのかもしれない。 「ただの夢だ。もう忘れたほうがいい」 重ねて言うと、セブルスはそれっきりその話題は終わりとばかりに、宿題に取りかかった。 クロリスの広げた羊皮紙を指差して、間違っている部分を教えてくれる。 そうしている内に、ルシウスが談話室に入って来た。 「おはよう、クロリス。休日の朝から勉強とは熱心だね」 直ぐ側に立って覗き込む笑顔は優しくて、クロリスは何だかほっとした。 「兄さま、あのね、昨日変な夢を見て…」 「夢だよ」 ルシウスが笑う。 「あんな真似は君にはしない。ただの夢だ」 男には、大切な恋人には決して見せないような昏い願望があるものだ。 |