その薔薇の蕾は熟れた水蜜桃のように瑞々しく潤って、今にも開こうとしていた。 甘い香りが辺りに漂う。 ルシウスは待っていた。 その蕾が花開くのを。 時間も日にちも置き忘れてきたかのような空間で、ついにその時は訪れた。 ふっくらした花弁が甘く綻び、紅い紅いはらわたの中に隠していた少女の姿をルシウスの前に晒け出したのだ。 紅い薔薇の内で眠る少女の肌は、まるで雪のように白く、ルシウスは吸い寄せられるようにその白磁に手を伸ばした。 指にしっとりと馴染む、柔らかく弾力のある肌。 朝露のような露に濡れた髪が、少女のほっそりした肩や項に張り付いている。 ルシウスは絹糸の滑らかさを持つそれを指で梳き流し、微かに生命の兆候を見せている首筋に唇を寄せた。 刺激を受けた少女の瞼がふるりと震え、澄んだ瞳がルシウスの姿を映し出す。 その瞬間、狂おしい愛情に突き動かされたルシウスは、衝動のままに小さな肢体を組み敷いていた。 「クロリス…ああ…クロリス……」 穢れを知らない新雪を凌辱するのにも似た激しい愛撫で少女を追い詰め、そうする事で自分自身をも追い詰めていく。 これは、私のモノだ 誰にも渡しはしない 私のモノだ 「愛しているよ、クロリス」 朝、顔を合わせるなり、切ないような甘い笑顔で愛を囁いたルシウスに、クロリスはちょっとびっくりした顔で見上げた。 「兄さま?」 「愛している」 そのまま腕の中に包み込まれて、ますます混乱する。 「兄さま、どうしたの?」 「愛している」 困惑するクロリスに繰り返し愛を囁きながら、ルシウスは微笑んだ。 君が考えているよりもずっと、この想いは狂気に似ている。 |