年上の恋人は概して包容力があるところが魅力的だと言われている。 そうした意味では、クロリスの従兄であるルシウス・マルフォイは満点を超える評価に値する男だった。 「御待たせ致しました、ルーレショコラでございます」 隣のテーブルとの隙間にふくよかな身体をかろうじて割り込ませながら、この喫茶店の主人のマダム・パディフットがケーキの皿を差し出してテーブルの上に置く。 皿に乗っているのはブッシュ・ド・ノエルに似た形のチョコレートロールケーキだった。 濃厚なチョコレートの香りを漂わせるケーキには、茶色の粉雪さながらのココアパウダーが全体に降りかけられている。 この店を紹介してくれた友人から聞いていた以上に美味しそうなケーキだった。 「セイロンはどちら?」 「私だ。ダージリンは彼女に」 ルシウスの指示通りにそれぞれミルクティーのセットが乗ったトレイを置くと、マダムはごゆっくりどうぞと微笑んで立ち去った。 パウダーをローブに落として汚してしまわないよう、クロリスはフリルのたっぷりついたロゴ入りナプキンを膝の上に広げて置いて、フォークを手に取った。 窓の外には小雪の舞うホグズミードの小道。 向かいには大好きな従兄。 目の前には美味しそうなケーキ。 自然と笑顔になるクロリスを、ルシウスは瞳を細めて見つめている。 この魔法界には冷徹な色をした彼の目に見据えられて恐怖を覚える者も少なくないはずだが、そのアイスグレイの瞳は、今はただ何処までも優しく愛情に満ちた眼差しを最愛の従妹に注いでいた。 クロリスがぱくりと一口ケーキを口に運んだのを合図に、少しばかり早いアフタヌーン・ティーが始まる。 それはどちらにとっても幸せな時間だった。 すっかり青年らしい落ち着きと男性としての魅力を備えた年上の従兄を前に、クロリスが少しだけドキドキしてしまうのも無理はないのかもしれない。 年齢差のせいで、ホグワーツで学ぶ期間がすれ違ってしまった為、こうしてルシウスに会うのは久しぶりだった。 「この店には初めて入ったな。ここには良く来るのかい?」 「ううん、私も初めてよ。素敵なお店があるってお友達に教えて貰ったの」 バレンタインを間近に控えた週末とあって、ホグズミード村は大盛況だった。 今頃『三本の箒』はホグズミード週末を利用して訪れたホグワーツ生で一杯になっているのではないだろうか。 その点、このマダム・パディフットの喫茶店はそれなりに混んではいるものの、三本の箒のようなパブの騒がしさとは無縁だった。 レースやリボンで飾り付けられた少女趣味な内装は、少年達を尻込みさせて遠ざけるのに十分だったし、何よりも他の店とは客層が違う。 この店はいわゆるカップル御用達の喫茶店なのだった。 『好きな人とお茶をするのに、あの店ほどピッタリな場所はないわ』 そう言って笑っていた友人の言葉が甦る。 少しだけ心配になってクロリスはルシウスに尋ねた。 「兄さまは、こういうお店は嫌い?」 「いや、そんな事はないよ、クロリス。君が気に入ったのならば、また一緒に来よう」 ミルクティーのカップを手にルシウスが微笑む。 それは砂糖とミルクのたっぷり入った紅茶やチョコレートよりも、ずっと甘い微笑みだった。 「そう、今度のバレンタインにでも、またこうして二人きりで」 ルシウスはそう囁いて、キャンドルの灯りに滑らかなプラチナブロンドがキラキラと輝いている様にうっとりとしていたクロリスの手をそっと優しく包み込んだ。 |