「すまない。もっと早く城へ戻るべきだった。私の判断ミスだ」 「ううん。私が叫びの屋敷が見たいって言ったから…私が悪いの」 こんなに遠出をしなければ、雨が降る前にホグワーツへ帰れたはずなのだ。 ルシウスに迷惑をかけてしまったと思うと、じわりと涙が滲んでくる。 「ごめんなさい、兄さま…」 「君が謝る必要はないよ。私の責任なのだからね」 ルシウスが頬に唇を寄せて、軽くキスを落とす。 その唇の冷たさにクロリスはハッとした。 濡れたのはルシウスも同じ。 そして、ルシウスは毛布には入っていないのだから、このままでは体温は下がる一方だ。 「…兄さま」 クロリスはルシウスに向き直った。 恥じらいながらも毛布を開き、ルシウスを誘う。 「兄さまも一緒に毛布に入って。寒いでしょう?」 窓の外で稲妻が走り、ルシウスの整った顔を青白い光で照らす。 一瞬──ほんの一瞬だけ、クロリスはルシウスを怖いと感じた。 だが、それは雷光を浴びて走った影のせいで、次の瞬間には、もうその影は消えてしまっていた。 何故、この優しい従兄を怖いなどと感じたのだろう? クロリスは自分で自分に戸惑って、瞳を瞬かせた。 「有難う。君は優しい子だね、クロリス」 ルシウスが優しく微笑んで毛布を受け取る。 直に肌が触れ合うことで戸惑いを感じはしたものの、ルシウスの温かさに触れると、直ぐにそんな戸惑いは霧散して、代わりに暖かな安堵に満たされていった。 それは、自分を心から大切に想う男に守られている、愛されているのだという、本能が感じとった安堵だった。 「雨が上がったらホグワーツへ帰ろう。それまでは……」 ルシウスの言葉に頷き、その腕の中で温もりに包まれながら、とろとろと微睡む。 外ではまだ土砂降りの雨が冷たく地面を叩き続けていた。 |