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「そろそろ温まったかな?」

「うん。もう大丈夫」

10分もする頃には、うっすらと額に汗が滲むまでに体温が上がってきていた。

「ちょっと暑いくらい」

「そうか。このまま寝台に入れば、暖かいまま眠れるだろう」

ルシウスは、少し火照った頬を両手で包んで冷まそうとしているクロリスの足を取り、タオルで綺麗に水気を拭き取った。
手慣れたその手つきに、ふと幼い頃の記憶が蘇る。

4つ年上のこの従兄は、クロリスが小さい時から何かと世話を焼いてくれていた。
邸に泊まる時などは、それこそ食事から入浴から就寝まで一緒に過ごしたものだ。
まだよちよち歩きのクロリスが庭で遊んで汚れて帰って来た時には、浴室に追いたてて頭から爪先まで綺麗に洗ってやり、ふかふかのタオルで拭いてやるのも当然彼の役目だった。

「何だか、私、兄さまに甘えてばっかりね」

あの頃からちっとも成長していない気がして少し悲しくなる。

「私に甘えるのは嫌かい?」

「ううん、そうじゃなくて……だって、それって子供っぽくて手がかかると言う事でしょう?」

そう言って俯くと、火照った頬をルシウスの手が包み込むようにして顔を上げさせた。

「私は君を赤ん坊扱いしているわけではないよ。君を愛しているから、甘えて欲しい…何でもしてやりたいと思っているのだよ」

優しく囁きながらクロリスの顔を覗き込む。
暖炉の炎に照らされたルシウスの顔は、酷く魅力的な微笑を浮かべていた。

「それに……『子供』に、こんな事はしないだろう?」

「ぁ……」

石壁に伸びる二つの影が重なる。
甘いキスに、クロリスはうっとりと眼を閉じた。

「…でも……キスなら小さい時からしてたもの…」

唇が離れるなり、恥ずかしさからそう抗議すれば、ルシウスは肩を震わせて笑った。

「そうだね。私はあの時から君を独占したいと思っていた。だが、あの頃のキスとは違うはずだよ」

濡れた唇をなぞる指が、ひんやりとしていて心地良い。
唇をつつかれたクロリスは、釣られて微笑んだ。

「何も心配はいらない。君は素敵なレディに成長しているよ、クロリス。急がなくていいんだ。少しずつ大人になっていけばいい」

「うん…」

ルシウスに見守られて『女』に育っていくのならば、それは一番素晴らしい事のように思えた。
少し現金な気もしたが、安心して甘えて良いのだと言われて、クロリスの胸の中は甘い幸福感で満ちていった。
子供っぽいと思われるのも悲しいが、ルシウスに甘えられなくなるのはもっと悲しい。

「さあ、もう寝台に入りなさい。せっかく暖まったのに風邪をひいてしまうよ」

「はい、兄さま」

そう促されて、クロリスはソファから立ち上がった。
ルシウスがその肩にブランケットを掛けてやる。
二人はもう一度引き寄せられるようにして唇を寄せ合った。

「お休み、クロリス」

「お休みなさい…ルシウス」

ファーストネームで呼んだ事が恥ずかしいのか、クロリスはちょっと微笑むと、直ぐに身を翻して女子寮の階段へと駆けて行った。
一人取り残されたルシウスは、何とも言えない笑みを浮かべて杖を取り出した。
さっと一振りして、置かれたままの足浴に使った洗面器と暖炉の炎を消し去る。

「参ったな…あんな可愛らしい事をされては、今度は私が眠れなくなりそうだ」

そうして、寮監が見回りに来る前にと部屋に戻ったルシウスが、なかなか訪れない眠りに悩んでいる頃、当のクロリスは寝台に温かくなった体を潜り込ませて、早くも甘い夢の中にいた。


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