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二月。
寒風の吹きすさぶ中、十分ほども雪道を歩いただろうか。
ようやく見えたホグズミード村の入口に、なまえの前を歩いていたグループが歓声をあげた。
恐らく彼女達は三年生で、これが初めての訪問なのだろう。
弾んだ足取りでゲートをくぐり村に入っていく彼女達の後になまえも続いた。

入って直ぐにある大通りはある程度除雪されていて歩きやすい。
そこから一本裏通りに入ったなまえは、目的地である店の玄関テラスに上がった。
涼しげなベルの音と共に開いたドアの先は、シックな雰囲気の喫茶店だ。
窓際の一番奥の席に美しいプラチナブロンドを見つけて、慌てて奥へと向かう。

「おじさま!」

男の冷たく整った顔にあわい微笑がのぼる。

「すみません、お待たせしてしまいましたか?」

「いや、大丈夫だよ」

アブラクサスに座るように促され、なまえは彼の向かいに腰を下ろした。

「寒かっただろう。何か温かい物を頼みなさい」

「はい」

広げたメニューにさっと目を通し、少し迷った末にホットチョコレートを注文する。
もっと大人びた飲み物を頼もうかとも思ったが、きっとそんな背伸びは簡単に見透かされてしまうだろうから。
店内はストーブが焚かれていて温かい。
なまえはコートを脱ぎ、マフラーと手袋を外した。
アブラクサスも外套を脱いでいて、黒いローブ姿になっている。
久しぶりに見るその美貌になまえは頬に赤みが差すのを感じた。
アブラクサスは“同級生のお父さん”として想像するような人物像とはまるで違う。
妻を早くに亡くしているためか、まったく所帯じみた雰囲気がないせいかもしれない。

「そうか。もうすぐバレンタインなのか」

ふと店内に視線を流してアブラクサスが呟いた。
確かに、落ち着いた店内にはさりげなくバレンタイン用の装飾がなされている。

「ホグワーツでもその話題で持ちきりです。特に女の子は。カードを用意したり、誰にあげるかの内緒話ばかりしています」

「そう、私が学生だった頃も似たようなものだったよ」

三十路を越えてなおも遜色ない美貌の持ち主だ。
学生時代はさぞかしモテただろう。

「おじさまは沢山カードを貰っていたのでしょう?」

「そうだね。だが、本当に欲しいと願う相手からの物以外には何の価値もないものだよ」

「好きな人からは貰えました?」

「さて。どうだろう」

はぐらかすと言うよりも、もっと謎めいたニュアンスを滲ませてアブラクサスは微笑んだ。

「ところで、なまえ。君の好きな色は何だったかな?」

「え…ええと、青、です」

突然の話題転換に戸惑いながらも、なまえは自分の好きな色をアブラクサスに伝えた。
バレンタイン当日、その色の贈り物と情熱的なバレンタインカードが届くことになるとも知らずに。


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