人恋しくなる季節。 カレンダーが十月に変わる頃には、なまえの周りにも何組ものカップルが出来上がっていた。 本日は学期最初のホグズミード行きの日とあって、向こうで何処に行こうかと相談したり、楽しそうに語り合う男女の姿がいやに目につく。 彼らは昨夜から空が荒れ模様なのも気にならないらしい。 「喋るカボチャだと思えばいいんだよ」 朝食の席、窓から風雨とともに飛び込んできた梟達が落とす雨粒で濡れてしまったなまえの髪を清潔な白いハンカチで拭いてやりながらアブラクサスが笑う。 「君が気付いていないといけないから言っておくが、私はとっくにその方法をマスターしているよ。入学したその日にね」 なまえはちょっと笑って礼を述べた。 彼が、日々、女生徒からの熱いアプローチを涼しい態度で上手にあしらっているのを知っていたからだ。 マルフォイ家の次期当主らしい気品漂う立ち居振る舞いに、いかにも貴族然とした美貌とくれば、彼に憧れる少女は少なくない。 ただ、確かに彼は物腰柔らかで、同じ年頃の少年達とは比べものにならないくらい落ち着いた話し方をするとはいえ、他の生徒を見るその瞳はどこか冷ややかだった。 そのことに彼に熱を上げている少女達が気が付いているかどうか実に怪しいものだ。 「あなたは誰かと付き合ったりはしないの?」 「君が私の求愛を受け入れてくれるのなら、直ぐにでも」 さらりと言って、アブラクサスはまだ梟の水飛沫の洗礼を受けていないフレッシュジュースのピッチャーを引き寄せた。 なまえのグラスに新鮮なジュースを注ぎ、それを受け取ろうとしたなまえの手に自分の手をそっと重ねる。 驚いて彼の顔を見れば、綺麗に整った美しいそこには、なんとも形容し難い微笑が広がっていた。 「とりあえず、ホグズミードでお茶を飲むところから始めるというのはどうかな?」 「えっと…」 「嫌かい?」 「朝食の席で何を堂々と口説いている」 呆れた声が背後からかかる。 振り向くと、ローブの肩に黒いマントを羽織ったリドルが立っていた。 「人が躾のなっていないチビどもを調教している間に、何をやっているんだ、お前は」 「これはこれは、失礼致しました、我が君」 睨まれたアブラクサスは肩を竦め、恭しく頭(こうべ)を垂れる。 そんな彼に冷ややかな一瞥をくれると、リドルはおもむろになまえのグラスを掴んで一気に中身を飲み干した。 「あっ、それ私の!」 いま飲もうと思ってたのに…。 リドルの白い喉が動くのをなまえは恨めしげに見つめる。 そんな姿でさえもが格好よく、惹き付けられてしまうのだから始末に終えない。 「ホグズミードで好きなものを買ってやる。あそこにはお前の好きな甘ったるい飲み物が山ほどあるだろう」 「本当!?」 わかりやすいんだか、ひねくれてるんだか……。 チラリと向けられたリドルの瞳に小さく笑って、アブラクサスは自分のグラスを傾けた。 可憐な野薔薇は手折られるのを免れたようだ。 ひとまず、今日のところは。 |