グリンゴッツの建物から出たなまえは、まばゆい太陽の明かりに目をぱちくりさせた。 七月七日、七夕。 日本では残念ながら雨になる事が多い日ではあるが、ここ英国では気持ちの良い青空が広がっている。 この様子ならば夜も晴れるだろう。 なまえは全身に太陽の光を浴びるように胸を反らして空を見上げた。 暗い地下を猛スピードで走るトロッコに乗った直後とあって、暑いくらいの陽射しでも何だか心地よく感じてしまう。 しかし、隣のアブラクサスはそうは思わなかったようだ。 「あまり陽射しを浴び過ぎないように。建物の外では帽子を取ってはいけないよ。気分が悪くなったら直ぐに言いなさい」 「うん…有難う」 外の空気をゆっくり味わう暇もなく、書店の中へと連れ込まれる。 階段の脇の椅子になまえを座らせると、彼はホグワーツから送られてきたリストを片手に、必要な教科書を探し始めた。 手伝いを申し出ても、やんわりと断られてしまう。 元から紳士ではあったのだが、さすがに過保護すぎるんじゃないだろうかと思わなくもない。 どうやら今まで何度か寝込んでしまった事があるせいで、彼の中ではすっかり病弱な女の子だと認識されたらしく、今回も向こうから買い物に出掛ける日付を聞き出されて同行を申し出てくれたのだった。 勿論、実際にはなまえは決して病弱というわけではない。 同じ日本でも地域によって温度差などがあるのに、突然異国の地で生活することになり、慣れない気候とストレスで体調が崩れやすくなっていたのである。 (ただちょっと体調を崩しちゃっただけなんだけどなぁ…) なまえはカウンターに向かう綺麗な後ろ姿を眺めた。 若くして純血の名家の当主の座を継いだ、アブラクサス・マルフォイ。 マグルの世界で言うなら、彼は青年貴族だ。 端麗な容貌は言うまでもなく、その立ち居振る舞いも堂に入っており、とても同じ歳には見えない。 そんな彼に、まるでか弱い深窓の令嬢のように大事に扱われてしまうと、かなりくすぐったいものがあった。 本物の王子様なんて見た事がないけれど、彼の煌々しい美貌は王子様を夢見る女の子にはさぞかし理想の男性に見えることだろう。 「おいで、なまえ。次は服を仕立てに行こう」 涼しい顔で人混みをするりと抜けてきたアブラクサスが、荷物で塞がっていないほうの手を差し伸べてくる。 なまえははにかみながらその手に自分の手を預けた。 短冊に願いを書く事は出来なかったけれど、なまえの願いはこの魔法使いが何でも叶えてくれそうだった。 |