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頬にぽつりと何かが当たった気がして、反射的に空を見上げる。
すると、まるでそれを合図にしたかのように次々に雨粒が空から落ちてきた。

「おいで、なまえ。こっちだ」

アブラクサスに腕を掴まれて引き寄せられた先は、民家の軒先。
一つ先のハイストリートでは、濡れるのを嫌がって右往左往するホグワーツの生徒達の姿が見えた。
その殆どが女生徒のようだ。

「少し濡れてしまったね。大丈夫かい?」

「うん、平気よ」

過保護なのではと思えるほど優しい問いかけに笑って答える。
実際、直ぐに避難したお陰でまったくと言って良いほど濡れていなかった。
背の高いアブラクサスの肩に流れるプラチナブロンドについた水滴が輝いているのを眺める余裕もあるくらいだ。

「何処かお店に入る?」

「いや……見てごらん、空が明るい。俄か雨だ。少し待てば止むだろう」

確かに見上げた空は晴れている時と変わらないくらい明るかった。
ただ、雨のせいか、急に気温が下がった気がする。
何だか少し肌寒い。

「寒い?」

ぶるっと体を震わせたなまえを見てアブラクサスが笑う。
彼はなまえの肩に腕を回すと、その身体を自分のマントの中に引き寄せた。
すっぽり腕の中に包まれて身体が密着する。

「えっ──い、いいよ!平気だからっ!」

「震えているのに?いいから、大人しくしておいで」

赤くなって押し退けようとするなまえをアブラクサスは笑いながら抱きしめた。
普段はローブに隠れているせいで見た目にはわかりにくいが、引き締まって盛り上がった厚い胸は意外なほど逞しい。
身長が高いのは分かっていたけれど、こうして身体と身体と触れ合わせていると、圧倒的に体格が違うのがはっきりとわかる。
ただ背が高いだけではなく、長身に見合うだけの立派な体格の持ち主なのだ。
大人の男として完成されたアブラクサスの肉体は、同じ年頃の男子生徒でも羨むだろう。

「なまえ」

低く甘い声でアブラクサスが名を呼んだ。
耳元で響いたそれに背筋がぞくっと震える。

「風邪をひいてはいけない。雨が止むまで、このままで」

「……う、うん」

良い匂いのするローブの胸に顔を埋めたまま、なまえは微かに頷いた。
恥ずかしさはあるが、こうしてアブラクサスと温もりを共有するのは心地良い。
もう少しの間だけ、と目を閉じる。
この優しい春の俄か雨が止むまで。
──しかし、

「馬鹿か、お前は。濡れて困るのなら防水魔法をかければいいだけだろう。簡単に騙されるな。その内食われるぞ」

ホグワーツに戻り、リドルに呆れたようにそう言われたなまえの顔は、瞬く間に赤から青へと移り変わっていったのだった。


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