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マルフォイ家の当主となって以来、長年に渡ってルシウスはあちこちに気前よく寄付をしてきた。
お陰で、各方面に強力なコネを作る事が出来たし、社会的な信用も勝ち取る事が出来た。
聖マンゴ魔法疾患傷害病院への寄付も、そうした計略の一部だった。
「慈善活動」という形の、有識者達への印象操作である。
何しろ、病院を利用するのは貧乏人ばかりではないのだ。


「ミスター・マルフォイ。貴方に是非お会いしたいという人がいるのですが」

ちょうど魔法省運輸部の部長の見舞いに訪れた帰りのルシウスを、若い女性癒師が呼び止めた。
初対面のはずのルシウスの顔を知っていたのは、まさしく多額の寄付をしている富豪としての認識が病院スタッフの間に浸透している証拠と言えるだろう。

「私に? どのような用件ですかな?」

「ええ、あの、実は貴方からの寄付金で設立された寄金のお陰で治療出来た患者さんなのです。そのお礼を申し上げたいとか」

「それはそれは…私のような者がお役に立てたとは、実は喜ばしい事だ」

──お節介な女め!
ルシウスは内心舌打ちしながらも、表面上ではあくまで紳士的な態度を崩さなかった。
入院患者がどうなろうと、知った事ではない。
そんなくだらない事に裂く時間が惜しかったが、女性癒師はルシウスの了承を得たつもりのようで、既に近くの病室のドアをノックしていた。
ドアが内側から開き、おずおずと顔を出した少女に、癒師がにっこりと微笑む。

「良かったわね、なまえ。マルフォイさんがお話して下さるそうですよ」

なまえと呼ばれた少女は、癒師を見、それからルシウスへと視線を移すと、白い頬をうっすらと赤く染めた。

「あの……有難うございます、ミスター。貴方のお陰で、私は最先端の治療を受ける事が出来ました」

病衣を着た少女の体は細く、肌は透き通るかの如く白かった。
ただ、ルシウスを見上げるその瞳だけは、純粋な感謝の念で満ちてキラキラと輝いている。
ルシウスはらしくなく一瞬言葉を失っていたが、直ぐに気を取り直して、この場にふさわしい優しい微笑を浮かべると、なまえのほっそりした手を取った。

「礼には及ばないよ、なまえ。君のような子供達を助けられて、私も嬉しい。ここにはもう長く入院しているのかね?」

「はい。五年になります。でも、もうこの調子なら来月には退院出来るだろうって」

なまえは嬉しそうに語ったが、ルシウスは僅かに眉をひそめた。
──五年。
恐らくはドラコと同じくらいの年頃だろうに、一番輝かしい十代の年月を、この少女は白い牢獄のような病室で、ずっと病と戦い続けて来たのだ。
この、儚い花のような可憐で美しい少女が。

「ミスター?」

「ああ、いや…それはさぞ辛かっただろう。──そうだ、退院したら、私が何処かへ連れて行ってあげよう。退院祝いにね。遠慮はいらない、何処へ行きたいか言ってご覧」

そう言うと、なまえは少し恥ずかしそうに微笑みながら、ホグワーツに行きたい、と小さな声で告げた。
病気のせいで入学出来なかったから、と。
無論、ルシウスには容易い願い事だった。

──そして、その年の九月一日。
すっかり元気になり、真新しい学用品を一杯に詰め込んだ鞄をカートに載せて、キングズ・クロス駅を歩くなまえの姿があった。
その横には、姫を見守る騎士の如く、プラチナブロンドの紳士が寄り添っていたという。


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