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勝手知ったるダイアゴン横丁だからと、油断していたのかもしれない。
どれほど賑わっていても、大通りを一歩外れれば、必ず人々の死角となる場所はあるものだ。
その事をすっかり失念してしまっていたなまえは、いかにも人相の悪い男達によって、路地裏へと追い込まれていた。

「や…やめて下さい…」

大声で助けを求めれば良いものを、いざこうして周りを囲まれてしまうと、恐怖ばかりが先に立って、ただ震えることしか出来ない。

「まあまあ、そう言わずに。ちょっとだけ付き合ってくれればいいんだよ」

「そうそう。気持ちいいことを教えてあげるだけだって」

ニヤニヤ笑いを浮かべた男達が、獲物をいたぶるような余裕の足取りで少しずつ距離を詰めてくる。
舌舐めずりでもしそうな表情だ。

「ここじゃなんだから、まずは何処か──」

「何をしているのかね?」

男が垢で汚れた手を伸ばしかけた、その時。
突然、第三者の声が割って入った。

路地に現れた人物を見て、なまえの瞳が驚きに見開かれる。
ボルドーワインの色のベストの上に、黒い外套を羽織ったその紳士は、ドラコの父親のルシウス・マルフォイだったのだ。

「おじさま…!」

ルシウスの瞳がなまえを見、次いで男達に注がれる。
冷ややかな氷の眼差しに射られただけで、ならず者達は震え上がった。
ルシウスが死喰人だったという噂のせいか、あるいは、その冷酷な性質を見抜いたからなのか。
男達はそそくさとその場を逃げ出して行った。
横目でそれを見遣り、ルシウスがなまえの側へと歩み寄る。

「怪我は無いかな?」

「はい。おじさま…有難うございました」

なまえはまだドキドキと嫌な鼓動を打ち続けている胸元を抑えながら、ルシウスを見上げた。

「気をつけなさい。男は狼のようなものだ。女性のほんの僅かな隙に付け込んでくる──特に、君のような年頃の娘ならば、用心するに越した事はない」

「はい……」

やんわりと窘められてしまい、なまえは項垂れた。
確かに不注意だった。
その肩を優しく抱き寄せながら、ルシウスが微笑む。

「良い子だ…さあ、おいで。お茶をご馳走してあげよう。温かい紅茶で喉を潤して、嫌な出来事は早く忘れてしまいなさい」

「はい、おじさま」

なんて優しくて、紳士的な人なのだろう。なまえはルシウスを敬愛の眼で見上げ、嬉しそうに頷いた。


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