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なまえはあまり人混みが好きではない。
大勢の見知らぬ人間に囲まれているかと思うと、それだけで気分が悪くなってしまうから。

「君は繊細な女性なのだね」

青ざめたなまえを介抱してくれた彼は、そう言って微笑んだ。
君にはこんな吐き溜めのような場所は似合わない。
誰にでも相応しい居場所があるものだ。君には美しく整えられた館こそが相応しい、と。

優美なる純血の薔薇。

薔薇はたとえどんな名で呼ばれようとも甘く香るものだが、それを愛おしみ慈しむ存在がなければ、たちまち枯れてしまうのだ。
歌うように囁いた甘い声が、今もまだ耳の奥に残っている。

家に帰りついたところで、屋敷しもべ妖精から一番上の姉が里帰りして来ていると聞いたなまえは、自分の部屋ではなく、姉が滞在しているはずのゲストルームへと向かった。

「おかえりなさい、ベラお姉様」

椅子に座って寛いでいた姉が振り返る。
長く艶やかな黒髪が背で揺れ、やや厚みのある官能的な唇が微笑を浮かべた。

「久しぶりだね、キティ」

「もう…その呼び方はやめてってお願いしたのに」

もう“仔猫ちゃん”だなんて呼ばれるような小さな子供ではないのだと抗議するが、笑って受け流されてしまう。
10歳も歳が離れている上に、既に人妻であるベラトリックスには末の妹のなまえはまだまだ幼い子供にしか見えないのかもしれない。


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