2月14日、バレンタインデー。 『ホグズミードの外れにある、白い壁の家の前で待っている』 朝の梟便でそんな手紙を受け取ったなまえは、バレンタインのホグズミード休日ということではしゃいでいる生徒達の波を掻き分け、急いで約束の場所へ向かった。 メインストリートを外れて幾つもの店の裏通りを過ぎて行くにつれ、辺りには全く人気が無くなっていく。 やがて到着したその家の前には思った通りの人物が佇んでいた。 なまえの姿を見つけたルシウスが、微笑んで両腕を広げる。 「おじ様っ!」 「会いたかったよ、なまえ」 その胸の中に飛び込めば、愛おしくて堪らないと言った様子で抱きしめられた。 ルシウスの身に付けている仄かな香水の良い香りが体を包み込んだ。 「有難う。プレゼントのチョコレートとメッセージカードは確かに受け取ったよ。今朝梟が届けに来た時、直ぐに君からの物だとわかった」 「良かった…ちゃんと届いて」 「私からの贈り物は気に入って貰えたかな?」 なまえはちょっと赤くなってルシウスを見上げた。 見ているこちらが陶然となるような美しい顔を前に、今更ながらドキドキと心臓が高鳴り出す。 「おじ様ったら…皆に冷やかされて大変だったんだから!」 そう、今朝届いたのは手紙だけではなかった。 スプーンを片手に呆然とするなまえの前に、次々と梟がやって来てはプレゼントを落としていくのを、周囲の者達があからさまな羨望を持って眺めていたのである。 ある梟は大輪の薔薇の花束を。 またある梟は細長いドレスケースを。 みるみる山積みになっていく贈り物を前に、平然と食事を続けていたのはドラコぐらいのものだ。 事情を知っているスリザリン生はニヤニヤ笑いを浮かべていたし、贈り物の数を競っていたらしい女生徒は剥き出しの嫉妬の眼差しを向けて来たし、ヒソヒソ話しながら指差す男子はいるしで、本当に大変だった。 「口さがない者達は放っておきなさい。君は私の大切な女性なのだからね。そうした待遇を受けて当然と、胸を張っていればいい」 「もう…」 ルシウスに軽くキスをされ、なまえはそれ以上何も言えなくなってしまう。 そうしてなまえを抱きしめている彼の背に流れる月光色の髪を束ねているビロウドのリボンが、去年のバレンタインに自分が贈った物だと気づいて、なまえは素直に嬉しいと感じた。 腕を回して、ぎゅうっと抱きしめ返す。 「愛しているよ…時間が許す限り、君を味わいたい」 「……はい…」 なまえを抱き上げたルシウスは、近くにあった白い家へと足を向ける。 そこはホグワーツに在学中のなまえに逢えるようにとルシウスが二人の為に買った愛の巣だった。 夕暮れまでにはまだ時間はたっぷりある。 ルシウスに味わい尽くされる為の時間が。 |