ホグワーツへやって来た留学生は、ルシウスの婚約者らしい。 その噂は、あっという間に学校中に広がった。 「なまえ、ここがスリザリン寮だ」 広い背で揺れる美しい銀髪を見ながら石壁に開いた扉を通ったなまえは、その言葉に改めて周囲を見回した。 恐らく寮の談話室なのだろう。 丸い緑がかったランプが、神秘的な光を投げかけて、石造りの壁や天井に複雑な陰影を描き出している。 彫刻の施された暖炉や椅子はとても高価な年代物のようだ。 低い天井の下で、長身のルシウスは些か窮屈そうに見える。 ルシウスとなまえが談話室へ入って来たのを見て、思い思いに寛いでいた寮生達は椅子から立ち上がって居住まいを正した。 暖炉の前のふかふかの椅子に座っていた少女が、後ろにいる黒髪の少年を一瞬振り返ってからなまえに向き直り、嬉しそうに笑いながら駆け寄ってくる。 「初めまして、姉さま。クロリスです。なまえ姉さまでしょう?」 子犬のように懐いてくる少女になまえが戸惑っていると、苦笑を浮かべたルシウスが少女の肩に手をかけ、やんわり引き離した。 「こらこら、なまえが驚いているだろう。すまない、なまえ。この子は私の従妹のクロリスだ」 「なまえ姉さまの事は兄さまにずっと聞かされていました。兄さまのお嫁さんになるのだから、私の姉さまになるんですもの。私、ずっと姉さまにお会いしたかった…」 きらきらと瞳を輝かせてなまえの腕に抱きついてくると、少女は従兄であるルシウスを不満げに見上げた。 「それなのに、兄さまったら『なまえは日本で忙しい生活を送っているから』と言って会わせてくれなくて…自分は日本まで逢いに行っていたのに、ずるいわ、兄さま」 「私はなまえがホグワーツへ留学する準備を手伝いに行っていたのだと言っても、聞いてくれなくてね…」 参ったよ、と苦笑するルシウスに、なまえも困ったように笑う。 「ねぇ、兄さま。姉さまのお部屋は私のお部屋でいいでしょう?」 「そんな事を言って…どうせもう荷物を運び込んであるのだろう?」 やれやれと言わんばかりのルシウスににっこり笑って頷くと、クロリスはなまえの腕をしっかり抱きしめたまま女子寮へ続く階段へ向かって歩き始めた。 「姉さま、こちらです。私、荷物の整理を手伝いますね。片付けが終わったら一緒にお茶を飲みましょう? お話したい事がいっぱいあるの」 「酷いな、クロリス。久しぶりに再会した恋人同士の邪魔をする気かね? 少しはなまえを貸して欲しいのだが…」 「ダメ。兄さまは絶対姉さまを独り占めしようとするもの。私が先にお話するの」 めっ、と睨みつけるクロリスに肩をすくめて、ルシウスはなまえの頬に軽く口付けた。 「すまないが少し付き合ってやってくれ。君と会うのを楽しみにしていたようだから」 ぱしぱし胸を叩いて抗議する従妹に「あまりなまえを疲れさせてはいけないよ」と注意して、ルシウスは二人を送り出した。 |