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ホグワーツの事務員になることは、学生時代からの夢だった。

教師だとさすがにハードルが高いし、椅子の数にも限りがある。
私のような真面目に勉強に取り組むのだけが取り柄のような人間が確実にホグワーツで働くには、事務員になるのが一番の道だったのだ。

だから、夢が叶った今は毎日がとても充実していて楽しい。

「確かに。楽しそうで何よりだ」

「おわかりでしたら、邪魔をなさらないで下さい。Mr.マルフォイ」

「どうか、昔のように、ルシウスと」

甘ったるい響きの美声で請われて、私は慌てて辺りを見回した。
周囲に誰もいないのを確認してから、改めて彼に向き直る。

「やめて下さい、マルフォイ先輩。私達、そんな関係じゃなかったでしょう」

「そう、君は一度たりとも私の誘いに乗ってはくれなかった。残念なことに」

「既に婚約者がいたのに、後輩に粉をかけるのはどうかと思います」

「君は真面目だな。女性は美しい花のようなものだ。それぞれに違う魅力を持っている。君をナルシッサと比べたことなどなかっただろう」

「先輩は、その花々の間を飛び回っては、気まぐれに蜜を吸う悪い蝶でしたね」

「これは手厳しいな」

マルフォイ先輩は苦笑してみせたが、実際にはそれほどダメージを受けてはいないだろう。
まるでスリザリン生の見本のように、狡猾でふてぶてしい人なのだ。昔から。

「私が蝶ならば、是非君の甘い蜜を吸わせて貰いたいな」

「結婚を控えた方がご冗談を。ナルシッサに言いつけますよ」

女性ならば誰でもくらっときそうな魅力的な微笑みを浮かべたマルフォイ先輩の甘い誘惑を、即座に叩き切る。

私は彼が気まぐれで手を出してきた女の子達とは違うのだ。
自立した強い女であろうと今まで頑張ってきたのに、こんなところまで来て邪魔されたくはない。

「君がどう思っているかはわかっている」

マルフォイ先輩は切なげな表情を作って瞳を伏せた。
ちょっとドキッとしてしまった私は悪くない。
悪いのはこの悪魔のような美貌の男だ。
この人の見かけに騙されてはならない。
それで泣くはめになった女の子達を山ほど知っている。

「どう言えば信じて貰えるだろうか。君は、私にとって特別な女性なのだ。昔も、今も、変わらずに、ずっと」

「そんなこと…」

「信じられないのも無理はない。君が得られなかった腹いせに私は随分荒れて、多くの女性に酷いことをしてしまったからね」

マルフォイ先輩が一歩歩み寄る。
私は同じだけ後退った。
そうして一歩一歩迫り来るマルフォイ先輩から逃げる内に、いつの間にか壁際まで追い詰められてしまった。

マルフォイ先輩が私の顔の横に手を突き、その整った顔を近付けてきたので、私は視線を逸らした。

「君を愛している」

「!」

「君を想うと息も出来ないほどに。どうか、君に焦がれてやまない哀れな男を救ってくれないか」

「ナ…ナルシッサが…」

「ここにいるのは、私と君だけだよ、なまえ」

返事を、と迫られて私は息を飲んだ。

その双眸に宿る狂気にも似た執着が、私を凍りつかせる。
身動き出来ない私に迫ってくる、美しい男を拒絶しなければいけないのに。

「さあ……なまえ」


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