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「インフルエンザですね」

「えっ」

「スラグホーン先生に連絡しておきます。最低でも5日は入院ですよ」

使用した綿棒などの器具を片付けながらマダム・ポンフリーがきびきびと言った。
なまえはと言うと、熱でぼうっとしているのと、魔法界にもインフルエンザがあったのかという驚きでひたすら呆然としていた。
ただ、やはり治療は魔法薬で行うらしい。
滅茶苦茶酷い味がする液体の薬を飲まされた。

「甘いシロップだとでも思ったんですか?」

あまりに酷い味に顔をしかめるなまえに、やれやれといった風に言って、マダムは水盥で手を洗った。
前掛けで手を拭きながらしっかりと釘を刺す。

「くれぐれも安静にしているように。医務室から出てはいけませんよ」

「はぁい…」

マダムが出て行くと、医務室は静寂に包まれた。
退屈だ。
ああ、今朝の朝食は大好きなハニートーストだったのに。
考えたらお腹がすいた。
吐き気がなくて食欲があるというのは悲劇だ。

仕方ない。寝るか。
毛布を顔まで引っ張り上げて目を閉じた時、不意に人の気配を感じて目を開けた。

「レ…」

「静かに」

レギュラス、と呼ぼうとしたら、しー、と唇に長い人差し指を当てられる。

「食欲はある?」

頷くと、レギュラスは清潔な布で包まれていたトーストを取り出してみせた。
蜂蜜の入った小瓶も持っている。

「慌てないでゆっくりお食べ」

「ありがとう。でもここに来て大丈夫なの?」

大丈夫なはずがない。
インフルエンザがうつってしまう。

「僕のことなら心配いらない。平気だよ」

優しく髪を撫でられて、お食べ、と促される。
なまえは頷いてトーストを受け取った。
レギュラスが小瓶から蜂蜜を垂らしてくれる。
かじりつくと甘い味と花の芳香が口内に広がった。
美味しい。嬉しい。

「夜はローストビーフだそうだよ。食べたい?」

「うん!」

「じゃあまた持ってきてあげる」

神様だ。神様がここにいる。

「ありがとうレギュラス」

「お礼はこれでいいよ」

唇に優しくキスが落とされる。

「蜂蜜味だね」

レギュラスが笑って言った。

「嬉しいけど、今のでうつっちゃったかも」

「それならそれでいいさ。君が早くよくなるなら」

もう一度なまえの頭を撫でて、レギュラスは来た時と同様に音も立てずにするりと医務室のドアを開けて出て行った。

唇に手を当てる。

そこにはまだ彼のぬくもりが残っていた。


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