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「ダイアゴン横丁に行って来たそうだけど、気分が悪くなったりはしなかったかい?」

ベラトリックスが手招きする。
長く伸ばされた爪に、光沢のある黒いマニキュアが塗られているのが見えた。
歩み寄ったなまえの頬を撫でてベラトリックスが顔を覗き込む。

「ええ…実は少しだけ。でも、偶然通りがかったルシウスが助けてくれたの」

「ルシウス!」

ベラトリックスは鼻で笑った。

「シシーはすっかりあの男に夢中なようだね。お前もお気をつけ。甘い言葉に騙されるんじゃないよ」

「わ、私はナルシッサお姉様とは違うわ。ルシウスだって、私のことはきっと妹か何かのように思って気遣ってくれているだけよ」

「妹ねぇ…」

嘲りを隠しもせずにベラトリックスが呟く。

「あの男がお前に執着しているのは間違いない。今日だって、本当に偶然だったかどうか……」

ルシウス・マルフォイの真意がわからず、ベラトリックスは苛ついていた。
ルシウスは純血の旧家の嫡男だ。
同じ純血の家系から妻をと願う気持ちはわからないでもない。
釣り合いを考えて妥当な相手となるブラック家の本家には、男子が二人だけで娘はおらず、分家であるこの家には未婚の娘が二人。
となれば、当然選択肢は二つ。
正式な申し入れはまだであるものの、願ってもいない縁談に大喜びで飛び付きかねない両親を止めているのは、他ならぬベラトリックスだった。
腹の底の知れない男に可愛い妹をくれてやるつもりはない。
純血だからという理由で愛のない結婚をするのは自分だけで十分だ。
──もし愛があったとしても、それはそれで不愉快だが。
そういった理由から、ベラトリックスは、この歳の離れた妹に縁談の話を聞かせるべきか否かまだ迷っていた。

「とにかく。ルシウスには近付くんじゃないよ。あの男は信用出来ない」

「お姉様ったら…」

困ったように微笑む妹を解放し、ベラトリックスは着替えてくるよう促した。
外出着のままで真っ先に自分のところにやって来てくれた事は嬉しいが、体調も心配だ。

「着替えて部屋でゆっくりなさい。紅茶を淹れて持って行かせるから」

「有難う、お姉様。そうします」

なまえが退室すると、ベラトリックスは改めて可愛い妹を狙う輩をどう撃退するかについて頭を悩ませた。

薔薇は、もう半ば摘まれたも同然の状態であるとも知らずに。


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