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言葉のあや。
そう、売り言葉に買い言葉だったのだ。

「誕生日おめでとう」

リドルが本から顔を上げる。
怪訝そうな表情をして、それから「ああ…」と思い出したように頷く。

「そういえば、そうだったな」

そういえば、じゃない。
梟便の土砂降りに遭いながら言う台詞ではないと、なまえは思う。
勿論、中身は全てプレゼントやお祝いのメッセージカードである。
年明けまで続くクリスマス休暇の最中、一年の最後の日と言う事もあり、大抵の生徒は帰省している。
そうした生徒が、ホグワーツに残っているリドル宛てに送ったプレゼントなのだ。
当の本人は、気のないそぶりで、目の前の贈り物の山から崩れ落ちて来た包みを手で払って退けた。
朝食後の寛いだ時間を邪魔されたくないとでも言うように邪険な手つきだ。

「あの…お誕生日おめでとうございます」

ふと、横から声がかかった。
テーブルの横を通りすがる時に、思い切ってと言った様子で告げる他寮の女生徒の姿を見つけ、本から顔を上げて優しい微笑を向ける。

「有難う」

年季の入ったキラースマイル。
免疫の無い下級生らしい少女は、顔を真っ赤にして走り去ってしまった。

「二重人格」

ぼそっと呟くと、心外だと笑われた。

「何が悪い?彼らが望んでいるのは、『優等生で人格者のトム・リドル』だろう?お望み通りにしてやっているんじゃないか」

そう言って、背筋の寒くなるような人の悪い笑みを向ける。

「それで?その二重人格の性格破綻者に何をくれるのかな?」

…凄く、物凄く、性格が悪いと思った。
むっとしながらも、ここで退いたら負けだと感じて踏ん張る。

「何が欲しいの?」

実はプレゼントを用意していなかったわけではない。
でも、手編みのセーターなんて、ありきたりすぎて鼻で笑われるかもしれないと思うと、素直に切り出せなかった。

「何でも構わないのか?どんな事を言われても、僕の欲しい物を用意出来るとでも?」

「内容によるわ。お望みなら、私にリボンでも巻いてプレゼントにしてもいいわよ」

いつもの意地悪の仕返しのつもりで、精一杯澄ました口調でそう言うと、リドルは奇妙に優しい笑顔を浮かべた。

「では、そうして貰おうか」

「えっ!?」

まさか食い付いてくるとは思わなかった。
いつもの意地悪な切り返しを期待していたのに。
おまけに頭を撫でてきたりする。

「君がそんなに僕を想ってくれているとは知らなかったよ。有難う、なまえ。では、部屋で待っているから、夜になったらおいで」

石化するなまえに優しく言い置いて、リドルは席を立った。
そのまま振り返りもせずに大広間を出て行ってしまう。
僅かに後ろ姿の肩が震えているのは、きっと笑いを堪えているせいだろう。
完璧にからかわれている。
恐らくは、あれは冗談だったと泣きついてくるとでも思っていたのだろう。
冗談ではない。
こっちも、伊達に5年もこの意地悪帝王と付き合ってきたわけじゃないのだ。
からかわれたり、意地悪をされたりしてリドルと一緒に過ごす間に、なまえはすっかり負けず嫌いに育ってしまっていた。


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