「なまえ」 冷たい冷たい手が触れる。 「知ってる?手の冷たい人は心が暖かいんだって」 そう言うと、彼はつまらなそうに笑った。 「ふん…くだらない」 「そう?」 馬鹿にしたような口調とは裏腹に、私の髪を撫でる手は、泣きたくなる程に優しい。 ゆっくりゆっくりと染み込んでいく、甘い毒のよう。 優しい人。 あなたはとても優しい人。 闇に蝕まれてしまうくらい、優しい人。 「リドルは優しいよ」 「……もう黙れ」 重ねられた唇も、酷く冷たい。 胸元に顔を埋めた彼のさらりとした髪を指に絡めて、そのしなやかな背中越しに広がる闇を見る。 毒が回って動けない獲物を、ゆっくりゆっくり飲み込んでいく蛇。 思わず溢れた笑みに、怪訝そうな眼差しを向ける彼に、私は腕を絡めて瞳を閉じた。 こんな優しい闇ならば、永遠に囚われるのも怖くない。 |