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堕ちていく

トン と 背を 押して

舞い落ちるから

あの地面に
ぶつかるまでは

私 は 鳥

そして
地の底に堕ちたなら
翼をもいで

二度とあなたから
逃げられないように


「なるほど…そうしよう」

面白がっているような響きを持つ呟き。
誰なのか、と目を開けるまでもない。
カサリ、と紙の擦れる音がするのは、リドルがなまえの書いた詩を見ているのだろう。
正確には、なまえが魔法を書けた羽根ペンが勝手に動いて書いたものなのだが。

なまえが瞳を閉じたままでいると、彼は小さく笑った。
唇にひどく冷たい何かが重なる。

「起きろ」

傲慢な、けれど厳しくはない声に、瞳を閉じたまま答える。

「眠っていた訳ではないわ」

「ふん…考え事でもしていたのか」

木陰に仰向けに寝ている私の隣りに座る気配。

「闇を見ていたの」

「それならいつも見ているだろう」

そう、今も隣りにいる。

「違うわ。自分の闇」

こうして目を閉じていると、瞼の裏に自らの抱える暗黒面が見える気がする。
暗い深淵にくるくると堕ちていくようだ。
そう告げると、彼はクックと楽しそうに笑った。
死人のように冷えた指先が髪を絡めとる。

「本当にお前といると退屈しないな」

微かな音をさせて、詩が書かれた紙を放り出すと、リドルはなまえの上に屈み込んだ。
目を開けば、すぐ間近に血のように紅い真紅の双眸。

「それほど望むならば、今に僕が真の闇を見せてやる」

ゆっくりと顔が近づき、なまえは再び目を閉じる。

「僕と来い、なまえ」

放り出された紙に、羽根ペンがまたさらさらと続きを書きつけていく。


逃げたいの

逃げたくないの

わからないから
翼をもいで

逃げられないように閉じ込めて

あなたといられるならば
闇の底でも構わない


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