※兄妹 そろそろ来る頃だと思っていた。 それでも、逃走防止の為に二重三重に魔法を掛けられたドアが開き、世話係りの老婆ではなく、ヴォルデモート卿の姿が現れたのを見たなまえは、恐怖に体を強張らせた。 すらりとした長身にまだ旅行用の黒マントを纏っている事から、彼が帰還して直接ここへ寄ったのだとわかる。 長旅だったはずだが、その整った顔からは疲労の色は伺えない。 むしろ、楽しそうな微笑すら浮かんでいる。 彼は、ベッドの上に横になったままのなまえの傍まで歩み寄ると、その縁に腰掛けた。 真紅の瞳がチラリとベッドサイドのテーブルへと向けられる。 そこに手付かずのまま放置された食事のトレイを見た男は、再びなまえに視線を戻して優しく頬を撫でた。 「駄々をこねて世話係りを困らせているそうだな」 陰気な顔をした老婆をなまえの世話係りに任命したのは彼だった。 口が固く、自分の仕事に従順な老婆はこの役目に適任だと考えたのだ。 「お前がいつまでも食事をしないと言うならば、役立たずのあの老婆は始末するとしよう」 さらりと告げられた言葉に、なまえはぎょっとしてヴォルデモートを見上げた。 「そんな……!」 「当然だろう。あれにはお前の面倒を見るように言ってあるのだから、それが出来ないのならば雇っている意味がない」 そして、秘密を知られた以上、生かしておくわけにもいかない。 そう続けたヴォルデモートは、瞳を細めてなまえの下腹部を見下ろした。 柔らかな曲線を描いて微かに膨れているそこを、男の大きな手が愛おしげに撫でる。 「お前が誰の子を孕んでいるのか…話されては困る」 それを聞いた瞬間、なまえは泣きそうに顔を歪めた。 ふるふると体が震える。 「お願い…兄さま……こんな…こんな事…」 「泣くな。何も恐れる必要はないと言っただろう?」 ヴォルデモートは嗚咽を洩らす妹に優しく微笑み、そっと唇を重ねた。 怯えてわななく柔らかい唇を自らのそれでついばみ、舌先を温かな口内に滑り込ませる。 「……ん……ぅ…」 涙を溜めて見開かれた目を至近距離で見つめながら、甘く深い口付けを繰り返す。 やがて、諦めたようになまえが瞳を閉じて力を抜くと、彼は静かに唇を離した。 男が身を起こした拍子に、黒髪がさらりと揺れる音が耳に届いて、なまえはゆっくりと目を開く。 そうして、この世でただ一人の血の繋がった兄の美しい顔を見上げた。 「良い子だ…今日の食事は僕が食べさせてやろう」 そう言って優しくなまえの髪を撫でると、ヴォルデモートは立ち上がった。 ドアを少し開いて、外にいる誰かと短く言葉を交わして、また戻ってくる。 懐から杖を取り出した彼は、テーブルの上の皿を消し、代わりに湯気の立つシチューとパンを魔法で出して、スプーンを手に取った。 「さあ、なまえ…」 促されてスープを口に含みながら、なまえは無意識の内に下腹部を撫でていた。 |