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放課後。
なまえは、空き教室で見知らぬ男子生徒と対峙していた。
呼び出され時に感じていた嫌な予感は、早くも現実のものとなった。

「なあ…いいだろ?そんなに深く考える事ないって。ちょっと付き合ってくれればそれでいいんだからさ」

ねっとりと絡みつくような話し方をしながら男子生徒が迫って来る。
名前は聞いたような気がするが、もう覚えていなかった。
確かレイブンクローの生徒だったと思う。

話があるからと、半ば無理矢理に人気の無い空き教室に連れ込まれたこの状況では、相手の名前がどうとかそんな事はあまり意味が無いかもしれない。
むしろ、何とかしてここから逃げ出す方法を考えなければならないだろう。

「何をしている」

突然響いた第三者の声にハッとする。
男子もそれは同じで、ギョッとしたように声のしたほうを振り返った。

「なんだ……噂の優等生サマかよ」

教室に入って来たのは、トム・リドル。
成績も良く品行方正で、他寮の生徒からも慕われている首席の生徒だ。
あからさまに馬鹿にしたような顔で警戒を解いた男子生徒に、リドルはゆっくりと歩み寄ってくる。

「僕の寮の生徒に何か用かな?」

「お前には関係な──」

目にも止まらぬ早さで懐から引き抜かれた杖が、喉元にぴたりと突き付けられて、男子生徒は途中で言葉を失った。
真紅の瞳がゾッとするほど残酷な光を湛えて、愚かな少年を見下ろしている。

「関係無い?…僕はそうは思わないな。『それ』は、僕のモノなのだから」

それならそうと言ってくれれば…、と言うような事をモゴモゴと呟き、男子生徒は慌ててその場を逃げ出した。
取り残されたなまえに、リドルの視線が移る。

「さて……何の警戒心もなく、あんな馬鹿な輩についていくような女には、お仕置きが必要だな」

見知らぬ男に迫られても恐れる様子も無かったのに。
助けに来てくれたリドルが、優しいとさえ言えるほどの甘い微笑を浮かべるのを見て、なまえは凄まじい恐怖を感じて蒼白になって震え始めた。


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