──赤い。 何もかもが赤く染まっている。 燃え盛る炎の中に立つ男は、赤い火炎に取り囲まれているのに、少しも肌を焼く熱を感じている様子もなく、薄笑いを浮かべて燃える家々を眺めている。 炎に照らされたその横顔には見覚えがあった。 真紅の瞳がゆっくりとこちらを向いて…… 「なまえ」 赤い唇が、呆然と見守っていた少女の名前の形に動いた。 「起きろ、なまえ」 ふに、と頬を抓まれて目が覚める。 「そろそろ仕度をして大広間に行かないと、朝食を食いはぐれるぞ」 そういうリドルは既に隙の無い様子で、きっちりと制服を着込んでいた。 もっと早く起こしてくれればいいのに、と文句を言いながら寝台から起き出す。 夜が遅かったせいで酷く眠い。 「叩き起こして欲しかったのか?疲れているだろうと思って眠らせておいてやったんだろう」 「誰のせいで…」 「そう。もっともっと、とねだった誰かさんのせいだな」 「!!」 臆面もない台詞に一気に脳が覚醒する。 「トムッッ!!」 すっかり茹で上がった恋人に、意地悪で魅力的な微笑を向けると、リドルは畳んであった着替えを差し出した。 「わかったら、ほら、早く着替えろ」 いずれ魔法界を紅蓮の業火で包み込む事となる非情な帝王も、この時はまだ、恋人と睦まじい朝のやり取りを交わす、一人のただの男だった。 |