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これで何通目だろう。
朝から念入りにカールしたらしい睫毛をぱちぱちさせている下級生の女の子から、ゴテゴテとデコレーションが施された真っ赤なバースデーカードが、恭しくリドルに手渡された。

「お誕生日おめでとうございます!」

「ああ、有難う」

リドルは彼女に嬉しそうに微笑みかけ、礼を言ってカードをポケットにしまうと、相手がそれ以上余計なお喋りを始めない内に、さっさと歩き始めた。
女の子は頬を薔薇色に紅潮させて彼を見送っている。
実にスマートなあしらい方である。
朝から何度となく繰り返されてきた光景。
女の子の姿が完全に見えなくなってから、なまえはずっと疑問に思っていたことをリドルに聞いてみた。

「ねぇ、もうポケットがカードでいっぱいなんじゃない?」

「そうでもないさ」

今朝から繰り返されてきたやり取りに、よくポケットからカードが溢れ出さないものだと関心しながら言えば、リドルは軽く肩を竦めて見せた。
瞳を細めてなまえの耳に唇を寄せる。

「ポケットにしまうふりをして、端から消しているからな」

「………」

種明かしをするようにして僅かに腕を持ち上げたリドルの袖口からは、杖の先端が覗いていた。
どうやら、受け取ったその手でポケットにしまうと見せかけ、無言呪文を使って『消去』していたらしい。
あまりに冷酷非道な所業に一瞬声を失ったものの、なまえは直ぐに気をとり直してリドルを睨んだ。
女の子達の味方をするつもりはないが、同じ恋する乙女として、流石に一言言っておきたかった。

「なんて人なの…可哀想に。せめて一度くらい読んであげればいいのに」

「時間の無駄だ。メッセージを読んでやったとして、僕に何の利益がある?」

「それは気持ちの問題だと思うけど」

「要は、貰って有難いと思うかどうかだろう。使えそうな物はちゃんと取ってある」

確かに、シンパから贈られた闇の魔術に関する貴重な蔵書や、高価な贈り物は、しっかりとしまいこまれているのはなまえも知っている。
それに比べればカードなど何の役にも立たないと言いたいのだろう。
なまえは釈然としないまま、リドルについて談話室へと入って行った。

クリスマス休暇で殆どの生徒が帰省しているせいで、石壁に囲まれた広い空間はガランとしていて、いつもより一層寒々しく感じられる。

「しかし、意外だな」

「何が?」

「お前は何とも思わないのか?」

指定席となっている暖炉前の豪華なソファに座り、長い脚を優雅に組んだリドルが、含みのある微笑をなまえに向けた。
そうやってふんぞりかえっている様が、嫌味なくらい良く似合っている。
悔しいが、格好いいと感じずにはいられなかった。

「何のこと?」

「僕が他の女からのプレゼントを笑顔で受け取っていても、嫉妬しないのかと聞いているんだ」

…リドルは本当に意地が悪いと思う。
頬が赤くなって熱を持つのがわかり、なまえは悔し紛れにリドルを睨みつけた。

「……やっぱり! わざとやってたのね…!」

少女達からの贈り物を受け取り、リドルが彼女達に笑顔を向ける度に、チクリ、チクリ、と胸をさいなんでいた痛み。
いちいちこんな事で嫉妬するなんて子供っぽいと、必死で平静を装っていたというのに。
全ては彼の計算通りだったなんて──
怒りと屈辱にぷるぷる震えるなまえに、リドルは優しく微笑んで手を差し伸べた。

「おいで、なまえ」

砂糖菓子のように甘い声。
思わず怒りを忘れてふらふらと歩み寄ると、腕を引かれて膝に抱き上げられる。
自分でも情けないとは思うのだが、どうしようもない。
リドルに言わせれば、飴と鞭による調教の賜物だと言うだろう。
…まあ、その通りなのだが。
それでも最後の抵抗とばかりに、一応抗議を申し立ててみる。

「ひどい……意地悪…」

「そうか? お前には優しくしてやっているはずだが」

わななく唇をリドルがそっと舐めた。

「ケーキが食べたいな。誕生日にはケーキがつきものだ。そうだろう?」

「………うん」

「生クリームをたっぷり塗り付けて──中にも指で塗りこめて、それを舌で」

「……待って! それ、本当に『ケーキ』なの?」

「勿論だ」

その夜、なまえは、それは見事なデコレーションケーキになったとか。


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