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今日は学期最初の薬草学の授業の日。
七年生になって初めて入った第6号温室は他の温室と様々な点で違っていた。
まず空が見えない。
ビニールに似た光沢のある素材で出来た外壁は真っ黒で、太陽の光が全く届かずまるで暗室のようだ。
それに、湿度が高くてジメジメしている。
カラッとした南国の暑さではなく、熱帯雨林を思わせる熱気が立ち込めているせいで、ただ立っているだけでも汗が吹き出てくるほどだ。

「ここでは、暗所と湿度を好む植物が育てられています」

顔の周りを飛び回る虫をうっとうしげに払い退けながら、薬草学の教師がそう説明した。

「皆さんはホグワーツの最高学年になりました。ですから、最後の仕上げとして、今までよりも更に危険な植物を勉強することになります。決して気を抜かないように」

つまり、ここにある植物は、危険性の高いものばかりということか……。
なまえは暑さから額を流れる汗を拭って、隣りにいるリドルを見た。
リドルはいつも通りの涼しい顔をして近くの鉢を見ている。
その鉢植えは、見た目は『ひらひら花』にそっくりだったが、人の気配を感じ取った瞬間、途端に正体を現した。
ウネウネとのたくる触手がリドルに絡みつこうとして、距離が届かずに空振っている。
──そう、これは『悪魔の罠』だ。
まさかこれが今日の“教材”かと、なまえは思わず眉間に皺を寄せた。
案の定、温室の前のほうでは先生が『悪魔の罠』の特徴について説明を始めたところだった。
人に巻き付いて絞め殺すという恐ろしい植物を前に顔を強ばらせている生徒達を余所に、リドルだけは些か白けた表情で説明を聞いている。
こんなもの子供騙しだと言わんばかりの顔だ。
もっと凶悪な植物が出てくるのを期待していたのだろう。
彼らしいと言えば彼らしい。

「そこに並んでいる『悪魔の罠』はまだ苗木から少し成長したばかりですから、不用意に近付かなければ捕まることはありません。
充分距離を取って観察し、写生すること」

ざわめきがさざ波のように広がり、同級生達はそれぞれ写生の準備を始めた。
怖々と距離を取って鉢植えの前に座っていく。

なまえはリドルと共に、先生から一番遠い場所にある鉢植えの前に陣取り、羽ペンの先をインクに浸した。
リドルもなまえをチラリと見たきり、特に文句を言うでもなく無言で羽ペンを走らせ始めた。

「──これは使えるかもしれない」

人の気配に興奮しているのか、落ち着きなく動く触手に苦戦しつつ暫くそうしてスケッチしていると、不意にリドルが呟いた。

「これを?何に?」

精一杯伸ばされた触手を払い退けながら、なまえは怪訝そうにリドルを見る。
そして、彼が良くない悪戯を思いついた時の微笑を浮かべていることに気付いて、ギクリとした。

「な、なに? 何に使うつもりっ?」

「別に大したことじゃない。まあ、いずれわかるさ」

わざと何でもないことのように軽く答えるリドルに、ますます嫌な予感を感じる。

「少し改造する必要があるな……死なれては困るし、かと言って、簡単に逃げられては意味がない」

「…ねぇ、それ、わざと私に聞こえるように言ってるでしょ」

小さな声だが、絶対に独り言じゃない。
わざとそうして不安になるよう仕向けているに違いない。
なまえは思いきりリドルを睨んだ。
が、彼はそれを涼しい微笑で交わす。
こちらを向いた紅い瞳が愉しげに光っていた。
…これは良くない。
非常に、良くない。

「ところで…異種姦や触手プレイに興味はあるか?」

「しょっ……!?」

『悪魔の罠』の改良後の用途(と、被験者たる自分の運命)を正しく理解したなまえは、これ以上ないほど青ざめた。


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