ちょっとした意趣返しのつもりだった。 あの金持ちの老魔女。 ブクブクに太ったあの老女が、リドルを“そういう目”で見ているのは知っていたから。 そして、彼もそれを利用して取り入っているのだと知っていたから。 だから、つい口が滑ってしまったのだ。 「貴方みたいな美貌の若い男に、物静かで丁寧な口調で口説かれて、さぞあのお婆さんはいい気分だったでしょうね」 「ふん……焼き餅か?」 濡れた髪をタオルで拭きながらリドルが笑う。 彼は妙に機嫌が良さそうな様子で帰って来たかと思うと、そのままシャワーを浴びに行っていたのだ。 バスルームから出てくるなり浴びせられた皮肉にも、怒った気配はない。 綺麗に筋肉がついた胸板を、ゆっくりと水滴が滑り落ちていく様子が堪らなくセクシーだ。 嫌でも、その逞しく若々しい体躯を年寄りのいやらしい妄想に使われたのではないかと考えてしまう。 それとも、もう実際に何かしたのではないだろうか… 「確かに僕は目的の為には手段を選ばない」 こちらの心を読んだように笑って、リドルはベッドの縁に腰掛けた。 「だが、あのババァには欲しいものを目の前にちらつかせるほうが効果的だ。与えてしまったら途端に制御が難しくなるだろう」 湿って温かい指が頬を撫でる。 「いつでも手に入るのだと思わせながら、決して与えない。そうする事であれは僕に夢中になったんだ。お前が心配するような事はしていない」 珍しくなまえを安心させるような優しい口調だった。 しかし、それも束の間、リドルは直ぐに意地の悪い笑みを浮かべた。 「それとも、あの女に対するような態度でシて欲しいのか?」 そう言うと、彼は突然立ち上がり、ベッドの脇に片膝をついて跪いた。 そうして、優雅な仕草でなまえの手を取り、そっと唇を寄せる。 「貴女のお望みとあらば、なんなりと」 静かな声で囁いたリドルは、首を伸ばして唇を寄せた。 「ト……!」 名前を呼ぼうとした唇が、柔らかく重ねられた唇に塞がれる。 頬が赤くなるような、優しいキスだった。 唇を離したリドルは、紳士そのものといった控え目な微笑を浮かべていたが、その目だけがチラチラと悪戯に赤く瞬いている。 「わたしが貴女以外の女性に惹かれるとでも?」 「トム…も、もう…」 「わたしはこんなにも貴女に夢中なのに?」 まるで、密かに焦がれる女主人に愛を囁くような口調だ。 「もうやめ…」 「愛していますよ、可愛い人…」 ぐっと身を乗り出すと、リドルはなまえをベッドに押し倒した。 そのまま、酷く優しい手つきで愛撫していく。 「やぁっ…ね、私が悪かったから…許して…」 「───ク…ククッ」 なまえの首筋に顔を埋めたまま、リドルが喉を鳴らして笑った。 完全に遊ばれている。 なまえは真っ赤になってリドルを引き剥がそうと暴れた。 「笑わないで!こんなに恥ずかしいなんて思わなかったんだものっ!」 「わかっている。いつも通り、意地悪にされないと濡れないんだろう?」 「……もう…!」 …でも、ちょっとだけ萌えたのは秘密だ。 |