おかしな話だ。 だが、誰にも相談出来ない。 “それ”に気が付いたのは、スリザリン寮の談話室で、いつものように宿題を片付けていた時の事だった。 「本当に素敵。ねぇ、見た?」 「見たわ!先生をバーン!でしょ」 少女達がクスクス笑いながら話しているのは、昨日の夜に行われた決闘クラブでの出来事らしい。 生徒から代表を選び、先生と決闘の見本を見せたのだが、その代表に選ばれた生徒がトム・リドルだった。 熱い眼差しを向ける少女達の前で、彼は目にも止まらぬ速さで魔法を繰り出し、相手役の教師を吹き飛ばしたのである。 容姿端麗で優秀な頭脳を持つ物静かな少年。 しかも、その不幸な身の上からか、何処となく陰を帯びた神秘性をも持ち合わせている。 そんな彼が、颯爽と魔法で年上の魔法使いを打ち負かす姿は、否が応でも乙女心を煽ったに違いない。 「壇上から降りる時、私ちょっと目が合ったの。良く磨かれた黒曜石みたいに、とっても綺麗な目だった…」 うっとりした声音に、羽ペンを走らせていたなまえの手がピタリと止まる。 「今、何て?」 急に会話に割り込んで来たなまえに、少女達は少し戸惑った風だったが、相手が憧れのリドルと良く一緒にいる人物だとわかると、更に顔を曇らせた。 噂話をしていたのを言いつけられると思ったのだろう。 「あの、私、別に…」 「リドルの目よ。何に似てるって言ったの?」 少女はもう一人の少女と顔を見合わせたが、おずおずと先程の言葉を繰り返した。 「…黒曜石。深い黒だから…」 ───黒…? なまえはすっかり混乱していた。 ──黒ですって? 黙り込んだなまえに、少女達が当惑しきった様子でいそいそとその場から立ち去る。 丁度それと入れ違いに、リドルとその取り巻きが談話室に入ってきた。 背の高い黒髪の少年は、真っ直ぐなまえに向かって歩いてくる。 「どうした、なまえ?」 彼が屈み込むと、さらりとした黒髪が揺れ、微かに良い香りが漂った。 湯上がりの香りだ。 リドルの手がなまえの頬を包むようにして、青ざめた顔を上げさせる。 リドルのすらりとした指が震える唇をなぞるのを、取り巻き達が少し離れた場所から見守っていた。 「何があった」 「なんでも…なんでもないわ」 頭の中でガンガンと鐘が打ち鳴らされているような気がする。 やはり、見間違いではない。 「嘘をつけ。それなら、何故目をそらす。ちゃんと僕の目を見ろ」 ゆっくりと視線を戻したその先、 血の色をした真紅の瞳が、直ぐ目の前からなまえを見つめていた。 |