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血筋だから仕方がないと言われれば、それまでかもしれない。
しかし、次第に丸みを帯びていく体に危機感を持たない少女はいないはずだ。

「もう諦めろ」

談話室のソファにゆったりと長身を預けながら、リドルは実に気軽な調子で言った。
元々他の子供とは違っていた彼だが、自らがスリザリンの血筋に列なるものであると知ってからは、何か決定的な変化が彼に訪れたような気さえする。
それに合わせて、取り巻きの様子も変わってきたようだ。
…どう変わったかと聞かれると困るのだが。

その点、なまえに訪れている変化は明白だった。
日増しにころころと丸くなっていっているのは、まず間違いない。

「ハッフルパフの肖像画を見ただろう? お前のそれは遺伝だ」

「そんな……」

うずくまってシクシク泣き始めた女の子に対して、その言葉はあんまりなんじゃないかと思う。
リドルの全く容赦がないところも彼の先祖の遺伝なのだろうか?
自らの主張を曲げずにホグワーツを追放されたという、サラザール・スリザリン。
リドルは確かにその頑固さや頑なまでの理想主義を受け継いでいるようだった。
では、ヘルガ・ハッフルパフの血筋をひくなまえが、ぶくぶくしていくのも仕方がない──いや、仕方がなくない!
ハッフルパフの直系の子孫であるなまえが、スリザリン寮に入れたくらいだ、
(組分け帽子は大層不服そうだったが)
必ず何か方法はあるはずだ。

「私、明日から食事は朝食だけにする!」

なまえはきっぱりと宣言した。
明日から、という辺りに、美味しい食事に対する名残惜しさが表れていたりする。

「だって、だって、あんな……」

先祖の肖像画を思い出してぶるぶる震えるなまえを横目で見て、リドルはまたレポートの作成へと戻った。
教科書を殆ど見もせずに、サラサラと迷いもなく文章を書き連ねていく。
一段落ついたリドルが少し体をずらせた拍子に、暖炉の炎に照らされて、リドルの胸元で金色のロケットがキラリと輝いた。
彼の誕生日になまえが贈った品である。
なまえの誕生日には、リドルはお返しにティーカップをくれた。

「とりあえず、誕生日にやったティーカップの取っ手に、その指が入らなくなるぐらい太らなければ、僕はそれでいい」

「良くない!良くない!!」

青ざめて首を振るなまえほどには、リドルはそれほど深刻に考えてはいなかった。
事実、太った太ったと騒いでいるものの、実際にはふっくらして可愛らしいといった様子で、彼女が心配しているような状態には程遠い。
むしろフワフワして柔らかく暖かい体は、何かの小動物のようで、非常に抱き心地が良いので気に入っているくらいだ。
胸もたっぷりと質量があるほうが、色々使い道があるし。
そんなリドルのよからぬ思惑をよそに、なまえは明日からのダイエットプランを練るのに必死だった。

「無理するな。そうそう、確か明日のデザートはお前の好きなレモンメレンゲパイだったかな」

「そ…そんな誘惑には乗らな──」

「外側はサクッと香ばしく、内側はふんわりと焼けたパイに、レモンの爽やかな香りが──こら、ヨダレを拭け」

「あ。(ごっくん)」

結局、ダイエットは三日経たずに終わった。
勿論、リドルの甘言のせいでは決してない。


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