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予想はしていたが、ホグワーツでの生活はわからない事ばかりだった。
文章で読むのと、実際に体験してみるのとではまるで違う。
もしも全く予備知識無しで放り込まれていたら、馴染むのに最低一年はかかっていただろう。
『トリップ』というのは案外苦労がたえないもののようだ。

「クリスマスはどうするの?」

唇に散った脂をハンカチで拭きながらエマが言った。
昼食時の大広間は騒がしい。
沢山の生徒達が大広間に出入りするせいだ。
まだヒアリングが難しい単語もあるので、会話をする時には集中して耳を傾けなければならないなまえにとっては、かなり厳しい状況であると言える。

「そろそろリストが回ってくるでしょう?クリスマスに残留するかどうかの。なまえはどうするの?」

なまえの微妙な表情を正確に読み取ったエマは、改めてそう聞き直してくれた。
組分け帽子が最後までレイブンクローに入れるかどうか悩んだだけあって、彼女は頭の回転が早く、賢い女性だった。
最終的にスリザリンになったのは良かったのか悪かったのか。

「えっと…たぶん残ると思う」

「やっぱりね。そう言うと思ったわ。トム・リドルがそうだものね」

エマは早くも知的な美人になるであろう片鱗を見せ始めた綺麗な顔でニヤリと笑った。
彼女はなまえがリドルに好意を持っていると勘違いしているのだ。

「そ、そうじゃなくて、ダンブルドア先生がホグワーツに残るからよ」

「ああ、そういえば、貴女はダンブルドア先生の親戚だっけ」

なまえはピッチャーからミルクを注いで頷いた。
親友を騙している事に多少の罪悪感を感じつつ。
表向き、なまえはダンブルドアの親戚の娘で、事情があって彼のもとに預けられている事になっているのだ。
つくづく、この世界でなまえを最初に発見したのがダンブルドアで良かったと思った。
異世界から来たと言われて信じてくれる人間はあまりいないだろう。

「ねえ、でも、今年は残って良かったと思えるかもしれないわよ」

「どうして?」

「アブラクサスよ」

エマがチラリと視線を動かして促す。
見ると、大広間の入口で、背の高い少年が二人何やら話している姿が目に入った。
少年の片方、見事なプラチナブロンドを低めのポニーテールの位置で一つに束ねているのはアブラクサス・マルフォイだ。
そして、彼と話しているもう片方の少年はリドルだった。

「彼、今年はホグワーツに残って、談話室でちょっとしたパーティーを開くそうよ。マルフォイ家でのクリスマスパーティーに招待されたがってた子達は全員残るんじゃないかしら」

アブラクサスがこちら向いた。
彼が微笑みかけたのは、たぶんエマに対してだろう。

「わざわざ彼が残るのはトム・リドルの為じゃないかって噂よ。一番の崇拝者だもの」

エマがそう耳打ちした時、アブラクサスが歩み寄ってきた。
リドルも一緒だ。

「昼食は終わった?」

「ええ、今、食べ終わったところ」

予想に反して彼が話しかけてきたのはなまえだった。
流石にちょっとドギマギしてしまう。
それに加えてリドルが急に唇に触れてきたので、なまえは危なく飛び上がってしまうところだった。

「な、な、なにっ?」
「脂がついてる」

指の腹でなまえの唇を撫でたリドルは、指についた脂をペロリと舐めた。
赤い舌先は、当たり前だが蛇のようには割れていなかったが、二股になっていてもおかしくないんじゃないかとなまえは思った。

「やれやれ、世話の焼ける子供だな」

取り出したハンカチでグイグイとなまえの口元を拭うリドルの様子に、あちこちからクスクス笑いが聞こえてくる。
アブラクサスも何だか意味深な微笑を浮かべて二人を見守っていた。
なまえは耳まで赤くなってリドルを睨みつけた。
絶対、絶対、こんな人好きなんかじゃないんだから!!

物語の行く末が変わるかどうかは、まだ深い霧の中。


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