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それは、ヘプジバ・スミスという名の老女が死ぬ、二日前の出来事だった。
豪奢な応接間の、ピンク色のソファ。
ケバケバしく飾りたてた老女の横に並んで座り、なまえは憂鬱そのものの表情で俯いていた。
室内にいる人間は三人。
ソファにでっぷりとした巨体を沈めている、この屋敷の女主人であり、なまえの大叔母にあたるヘプジバ・スミス。
その隣で置物のように静かに座っているなまえ。
そして、客人のトム・リドルだ。

「さあさあ、トム。お紅茶をどうぞ」

「有難うございます、マダム」

「マダムだなんて! 嫌だわ、そんな他人行儀な呼び方。ヘプジバと呼んでちょうだい、ねえ? トム」

宝石を縫い付けた真っ赤な鬘を着けた老女にあからさまな色目を使われても、リドルはまったく動揺する素振りも見せず、営業用の紳士的な微笑を崩さなかった。
内心どう思っていたにしろ、それを表に出さない忍耐力とスルースキルには感服するしかない。

「マダム。私は単なる使用人に過ぎません。こちらに伺っているのも、店主のバークから命じられた用件をお伝えする為なのです。畏れ多くて、とてもそのようにお呼びすることなど出来ません、どうかお許し下さい」

ところで、とリドルはヘプジバの要望をさりげなく流すと、勤め先の店主から頼まれているという内容を伝えた。
彼はボージン&バークスという名の店で働いていて、ヘプジバのような、価値のある骨董品を持っている金持ちからそれらの品を譲り受ける交渉役を務めているのだった。
これまでのところ、彼はその巧みにして狡猾な話術で、確実に実績を積み上げてきている。
このヘプジバ・スミスも彼のターゲットの一人に過ぎない。
ヘプジバはケチと強欲を絵に描いたような老女だったが、何度かの訪問ですっかりリドルの魅力の虜になってしまっていた。

「ホキー! 何処にいるの?」

ヘプジバがけたたましい声で屋敷しもべ妖精を呼ぶ。

「あれを持ってきて。二つともよ。彼に我が家の秘宝をお見せしたいの」

ヘプジバの注意がホキーへと逸れている隙に、なまえは顔を上げて、かつての同級生の甘く整った顔を見た。
薄く形の良い唇に笑みを浮かべて、リドルもまたなまえを見つめている。
艶やかな黒髪は相変わらず。ホグワーツにいた頃よりも少し伸びたようだ。
少年らしさが消え失せ、シャープなラインを描く頬。
美少年として有名だったリドル。
彼は誰もが息を飲むほど魅力的な男性になっていた。
あまり長く見ていて、ヘプジバに気付かれてはまずい。
先に視線を逸らしたのはなまえだった。


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