優しかった姉さん。 賢く勇敢でユーモアのある魅力的な少女だった私の双子の姉は、誰からも好かれていた。 小さい頃、二人で森に遊びに行って野犬に襲われかけた時も、姉さんは私を背に庇い、棒を振り回して犬を追い払ってくれた。 姿形はそっくりな双子なのに、中身はまるで違う。 両親でさえも見分けることは出来なかったくらい瓜二つの容姿をしているのに、私と姉さんは果てしなく違っていた。 だからかもしれない。 「残念ですが……」 癒者はそう言って首を振った。 白い病室には私だけ。 事故に遭い、双子の姉妹の片方は死に、片方だけが生き残った。 ご両親には知らせてあります、もうすぐ来られるでしょう。 そう告げる癒者の言葉を私はぼんやりと聞いていた。 誰からも愛されていた姉さん。 その姉さんが死んだと聞いたら、皆どれほど悲しむだろう。 「失礼ですが、お名前は…?」 だから私は答えたのだ。姉の名前を。 その瞬間、『なまえ』はこの世界から消えた。 「…ねえ、ななし。彼、貴女のことずっと見てるわよ」 「彼? 誰のこと?」 大広間で行われている新入生の歓迎会の最中隣りに座っていた同級生に耳打ちされ、私は彼女の視線の示す先を見た。 そこはスリザリン寮のテーブルだった。 途端、一人の少年──いや、既に青年と呼ぶに相応しい風格を備えた人物と目があった。 トム・リドル。 ああ、では、やはりホグワーツ特急の中で感じた視線は気のせいではなかったのか。 彼も私も監督生だったから、専用車両でのミーティングで顔を合わせていたのだが、その時にも見られている気がしていたのだ。 「気のせいじゃない?」 私は食事に戻りながら、何気ない風を装ってそう言った。 「嘘! だって、ほら、まだこっちらを見てる」 「じゃあ、貴女を見てるのよ」 笑って言えば、彼女はさっと顔を赤らめた。 そういえば、リドルはハンサムな顔をしているし頭も良い。 寮を問わず人気のある優等生だから、もしかすると彼女も憧れていたのかもしれないと思いあたった。 「あー…ええと……このプディング美味しいわねっ?」 急に違う話題をふってきたから、やはりそうなのだろう。 あまり追求しては薮蛇になりそうだったので、私にとっても都合が良い。 その後、私達は新学期についてあれこれ話し、豪華な食事を楽しんだ。相変わらず肌にまとわりついてくる視線を感じながら。 食事が終わると、ホグワーツに着いて最初の仕事が待っていた。 |