チョコレートフォンデュというものがある。 要領は大体チーズフォンデュと同じだ。 ひと口大にカットしたフルーツなどを、チョコレートに絡めて食べる。 「甘い物が好きだと言っていただろう」 ありありと警戒の色を浮かべた顔でソレを見つめるなまえに、リドルはいかにも優しげな顔で笑ってみせた。 目の前のテーブルには、フォンデュ用のセットが一揃い並んでいる。 ただし、容器の中に入っているのは、チーズでもチョコレートでもなく、何やら甘ったるい匂いのするトロリとした白い液体だった。 このホグワーツにおいて、食べ物を入手するのは案外容易い。 やり方さえ知っていれば大抵の物は手に入る。 彼もそうしてこれらを手に入れたのだろう。 恋人に食べさせてやるのだと言ったかどうかはわからないが、厨房のあの屋敷しもべ妖精達なら、喜んで食料を差し出したはずである。 「これ、何?」 「ミルクのようなものだ。食べればわかる」 リドルはこれまた優しい声でそう言った。 サラサラの黒髪を揺らして僅かに首を傾げ、安心させるように微笑みかける。 なまえはますます不安になった。 今日はバレンタイン。 図だけ見れば、恋人に甘い物を振る舞う男といったところだが、いかんせん怪し過ぎる。 「僕が食べさせてやろう」 ぷすり。 苺に細長いフォークを刺したリドルが、それをミルクらしき液体に浸ける。 とりあえず、おかしな煙が上がったりはしていない。 ぐるりと掻き混ぜてからそれを取り出したリドルは、なまえの口元へ恭しく運んだ。 「ほら」 やだ、あーんしない、とぶるぶる首を振るなまえに、リドルの綺麗な唇に浮かぶ笑みが深くなる。 その笑顔に危険なものを感じたなまえは、急いで口を開けた。 ぬるんっ、と白いミルク(仮)にまみれた苺が口の中に入り込む。 「………美味しい」 「何だと思っていたんだ」 何かよくわからないけど怪しい物。 心の中で答えて、もぐもぐと苺を咀嚼する。 練乳に似た味がするミルク(仮)は、意外なほど甘くて美味しい。 「全部食べていいぞ」 「うん!」 雛に餌をやる親鳥のように、リドルは次々とフルーツをなまえに食べさせていった。 月明かりも届かぬ地下の寝室での、ほのかに甘いひととき。 「トム…大好き」 「そうか。僕もだ」 特に、騙してからかう時のお前の反応が。 少々どころか、かなりねじまがった愛情表現を好む男は、密やかに微笑んだ。 媚薬が効いてくるまで、あともう少し。 |