1/1 


チョコレートフォンデュというものがある。
要領は大体チーズフォンデュと同じだ。
ひと口大にカットしたフルーツなどを、チョコレートに絡めて食べる。

「甘い物が好きだと言っていただろう」

ありありと警戒の色を浮かべた顔でソレを見つめるなまえに、リドルはいかにも優しげな顔で笑ってみせた。
目の前のテーブルには、フォンデュ用のセットが一揃い並んでいる。
ただし、容器の中に入っているのは、チーズでもチョコレートでもなく、何やら甘ったるい匂いのするトロリとした白い液体だった。
このホグワーツにおいて、食べ物を入手するのは案外容易い。
やり方さえ知っていれば大抵の物は手に入る。
彼もそうしてこれらを手に入れたのだろう。
恋人に食べさせてやるのだと言ったかどうかはわからないが、厨房のあの屋敷しもべ妖精達なら、喜んで食料を差し出したはずである。

「これ、何?」

「ミルクのようなものだ。食べればわかる」

リドルはこれまた優しい声でそう言った。
サラサラの黒髪を揺らして僅かに首を傾げ、安心させるように微笑みかける。
なまえはますます不安になった。

今日はバレンタイン。
図だけ見れば、恋人に甘い物を振る舞う男といったところだが、いかんせん怪し過ぎる。

「僕が食べさせてやろう」

ぷすり。
苺に細長いフォークを刺したリドルが、それをミルクらしき液体に浸ける。
とりあえず、おかしな煙が上がったりはしていない。
ぐるりと掻き混ぜてからそれを取り出したリドルは、なまえの口元へ恭しく運んだ。

「ほら」

やだ、あーんしない、とぶるぶる首を振るなまえに、リドルの綺麗な唇に浮かぶ笑みが深くなる。
その笑顔に危険なものを感じたなまえは、急いで口を開けた。
ぬるんっ、と白いミルク(仮)にまみれた苺が口の中に入り込む。

「………美味しい」

「何だと思っていたんだ」

何かよくわからないけど怪しい物。
心の中で答えて、もぐもぐと苺を咀嚼する。
練乳に似た味がするミルク(仮)は、意外なほど甘くて美味しい。

「全部食べていいぞ」

「うん!」

雛に餌をやる親鳥のように、リドルは次々とフルーツをなまえに食べさせていった。
月明かりも届かぬ地下の寝室での、ほのかに甘いひととき。

「トム…大好き」

「そうか。僕もだ」

特に、騙してからかう時のお前の反応が。
少々どころか、かなりねじまがった愛情表現を好む男は、密やかに微笑んだ。
媚薬が効いてくるまで、あともう少し。


  戻る  
1/1

- ナノ -